baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 インドネシア旅行記(3) 〜 ウジュンクロン

 ウジュンクロンはジャワ島の西端に位置する、世界遺産に登録されている12万ヘクタールに及ぶ国立公園である。希少種の動物が生息している為、一般には公開されていない。車でのアクセスも出来ない。行くには事前に届け出をして許可された者だけが船で行く事が出来る。ジャワ島の西海岸のアニェールからモーターボートで3時間ぐらい掛るから、ジャカルタから船で行けば、船足にもよるが10時間位も掛かろうか。
 ウジュンクロンで有名なのは野牛とサイである。その他、豹や虎、狼、フクロウ、等々希少な動物が沢山いる。一度行ってみたいと思っていたのだが、前述のような厳しい観光制限があり、なかなかチャンスがなかった。しかし志を捨てなければ何れチャンスは来るものだ。ある時知り合いのクルーザーのオーナーが誘ってくれた。勿論二つ返事で同行させて貰うことにした。
 ウジュンクロンには宿泊施設はなく、人間も住んでいない。宿泊施設は対岸の小さな島にのみ用意されている。そこで先ずは対岸の島、と言っても泳いでも渡れそうな距離なのだが、に上陸する。事前に関係官庁に届け出て許可が出ているので、上陸と宿泊設備のチェックインはスムーズに終わった。


この島にも虎、豹、猿、オオトカゲなどがいるそうだ。前庭の先にある密林にちょっと入ってみた。道はなく、鬱蒼とした文字通りの原始林である。倒木や蔓、背丈のある草などが無秩序に繁っていて昼間でも薄暗く、その上足場が物凄く悪い。直ぐ近くから、聞き慣れない鳥の掛け合う声がする。余り深入りすると出て来られなくなりそうなので、雰囲気だけ感じて直ぐに戻った。
 帰り道で早速、尻尾のなくなったオオトカゲに出会った。コモドートカゲではない。そこまで大きくはないのだが、それでも尻尾が無くなっていても1m強、尻尾があれば2m近くはあろうかと言うオオトカゲである。一瞬ドキッとしたが、暫く睨み合っているうちに段々愛らしくなって来た。見掛けに寄らず大人しいのである。後から聞いたら、ここのオオトカゲは人は襲わないそうである。
 猿は日本猿に良く似ている。頭が良い。宿舎にまで忍んで来ては欲しい物をあっという間に手に入れて脱兎の如く逃げてしまう。その逃げ足の速い事、地獄谷の猿の比ではない。クルーザーのオーナーはわざわざジャカルタから持ってきた食パンを、ほんの一瞬目を離した隙に袋ごと盗まれてしまった。


(宿舎の様子を窺いに忍び寄って来る野生の猿)

 夜は周囲に電気の類は一切なく、文字通りの真っ暗闇である。浜辺に出て天空の写真を撮ってみた。3分も露光するとご覧のような写真が撮れた。

(地球は自転している)

 しかし写真では分からないが、肉眼で見た星の数は夥しいものであった。天空にあれだけの星がぶら下がっているとは、日本では思いもつかない程の数の星が瞬いていた。

 翌朝、ガイドに連れられて他の宿泊客と一緒にゴムボートで対岸のウジュンクロンに渡る。先ず浜辺でサイの足跡を探す。確かに両蹄類の足跡が見付かった。しかし、素人には鹿だか牛だかサイだかの見分けは全くつかない。ガイドはこれがサイの足跡だと主張していた。ガイドによれば、当時サイは既に55頭にまで減っていた。個体数は足跡で数えるのだそうだ。サイはその角が漢方薬の貴重な原料として中国人に非常な高値で売れるので、密猟が後を絶たなかったのである。流石に政府が保護に本腰を入れている今はウジュンクロンのサイを狩る者はいなくなっているようだ。

(ウジュンクロンの浜辺)
 次に、浜辺までせり出している密林に分け入り、内陸側に出る。遥か彼方に小柄な牛の群れが草を食んでいる。我々が密林を抜けると、未だ200mはあろうかと言うのに、それまで草を食んでいた群れの中の一際体の大きなボス牛が昂然と頭を擡げて警戒態勢に入った。それが野牛であった。アメリカのバッファローのような動物をイメージしていたので、見掛けは極く普通の、且つ相当小柄な牛だったので実は拍子抜けであった。小一時間もいたが結局サイには出遭えず、野牛も100m程の彼方から遠望しただけであった。野生の牛の警戒心は殊の外強く、100m以上近付くとボスの命令一下突然群れごと走って逃げてしまうのであった。
 対岸の島に戻り、クルーザーに乗り移って下を見ると、小魚が無警戒に群れていた。人の影が動いても全く動じない。

(人を恐れない小魚の大群。自分で好きな写真。)
 陸の孤島という形容がぴったりのウジュンクロンでは、往復のクルージングを含め猿や、鳥、鹿、オオトカゲ、などの野性動物を目の当たりにし、一切人間が手を触れていない徹底した自然を楽しむ事が出来た。