baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 インドネシア旅行記(4) 〜 マドゥラ島 〜 競牛

 スラバヤから10km程離れた海向こうにマドゥラ島がある。貧しい島で、住民は出稼ぎが多い。ジャカルタでは三輪タクシーの運転手にマドゥーラ人が多い。ナイフ捌きが上手く、性格が荒いのでジャカルタの人とはあまり馴染まない。スラバヤからフェリーで30分位で島に渡る。
 この島で有名なのが競馬ならぬ競牛である。元々は日本の牛相撲の様に、優秀な牛を育てる目的で始まったようである。今でも優勝した牛には賞金の他に高価な種付け料が入るらしい。競技はリーグ戦で、毎年一度行われる。先ず村各にリーグ戦を行い、勝ち上がって来た牛同士で段々広い地域でのリーグ戦を争い、最後に島一番の牛を決める決勝戦が行われる。競牛と言っても何頭もの牛が一遍に走るのではない。先ず牛は二頭立てである。二頭の牛が竹の軛で結えられ、その竹の軛からソリの様に斜めに竹が結えられる。そこに騎手が乗る。そして競技は二組の牛の競争で勝ち負けが争われる。距離は350m位であろうか。直線で争う。相当広い空き地で二組しか走らないので、かなりの間隔を開けて走ることになるのだが、実は二頭が夢中になって走り出すと余りコントロールが利かなくなって、何処に向かって走るか甚だ心もとないのである。手綱がないのでジョッキーはスピードを上げたい時は尻を叩いて気合を入れ、スピードを殺したい時は減速したい方の牛の尻尾を引っ張って向きを調整する、調度キャタピラの原理で向きを変えるのだが、これが中々上手くいかないのである。 


(出走を待つ牛)


(競技中。出走の合図が良く分からないので、突然走り出してくる)

 毎年、この競技で死者が出ると聞く。牛が暴走して観客席に飛び込んで観客を撥ね殺すという。そういう事もあるのかも知れないが、実際に見ていると悪いのは牛ではなくて観客の方ではないかと思えてくる。僕は決勝戦を見に行ったのだが、決勝が行われる競技場でも観客席を仕切る塀はないから、確かに牛が走り込んだところにボヤッと立っていたら危ないだろう。でも勝負の常でみな賭けで熱くなっているようで、観客がどんどん競技場にせり出してくる。ゴールではゴールラインに沿って人が並んで見ている。牛が走り込んで来ると、そこだけ人の列が割れるのである。一方の牛はというと、二頭とも一生懸命走るのだが、二頭の早さが違えば当然段々斜めになり始める。一旦斜めになるとなかなか元に戻らない。そのままどんどん観客目指して走る事になる。時には二組がぶつかりそうになる。それでも牛は止まらない。二頭で意志の疎通を図らなければ到底止まれるものではないと思うが、一生懸命走らされているから「モー」とも言えないのである。


ゴールライン近くに並ぶ観客。出走すると皆前にせり出て来てゴールライン上に並んでしまう。左の石灰の白線がゴール)

 僕は何処で待ち構えるのが良いのか分からなくてウロウロしていたら、州知事がいる特等席に呼び上げられ、特等席で見る事が出来た。同時に知事が色々説明してくれた。田舎に行くと外国人には特に親切にしてくれる。


(勝利した牛。未だ興奮している。ジョッキーにも飼い主にも賞金が出る)

 競技は、牛が走っている時は色々ハップニングもあり迫力もあってそれなりに楽しめるのだが、全体に冗長で、しっかり企画されている訳でもないから出走の相間が恐ろしく長い。しかも炎天下だからもの凄く暑い。どうもこういう催し物は気の短い、何事も細かい事まで企画するのに慣れている日本人には結構辛いものがある。僕は、何レースか見たら飽きて来た。それでも二時間ぐらいは掛ったろうか。知事に呼ばれてしまったので早々に帰る訳にも行かず少し困った。しかし彼の地の人は娯楽が少ないこともあろうが、ゆったりと丸一日、お喋りと競技を楽しむのである。