baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 インドネシアの犬

 一般に回教徒は犬を嫌う。犬の唾液を不浄とする。恐らく狂犬病に罹らない為に犬を遠ざけたものだと思う。豚ペストを嫌って豚を遠ざけるのと同じであろう。回教は生活哲学的な教えが極めて多く、実生活に沿った宗教なのである。
 インドネシアに長く住んでいると、犬に恐い思いをする事が時々ある。住民が犬を虐めるので、別の言い方をすれば犬を嫌って遠ざけようと石をぶつけたり棒で殴ろうとしたりするので、犬から見れば飼い主以外の人間はほぼ間違いなく敵になる。だから、敵が近付こうものなら恐ろしい勢いで吠えたてて自分のテリトリーから追い出そうとするし、その為なら飛び掛かって噛みつこうとも一向に良心の呵責は覚えないように育っている。
 スマトラ北部のメダンから車で2時間程のところにトバ湖という湖があり、リゾートになっている。スマトラの北部にはバタック族という部族がおり、バタックはほぼ例外なくキリスト教徒なので、他の地域に比べて犬の飼育も多い。犬の数が多ければ野良犬も多くなる。ある時トバ湖に遊びに行った。湖沿いにカラオケやバーがあり、夕食が終わってからバーを覗きに散歩がてら外出した。バーで何杯か引っ掛けての帰り道、突然数匹の犬に囲まれて吠えたてられた。たかが犬だと思って大して気にもせずにいたら、いきなり飛び掛かって来た。慌てて追い払おうとするのだが、中々諦めないでしつこく飛び掛ろうとする。内心恐かった。結局は犬の縄張りの外に出たら、それ以上の追跡はなかったので無事ホテルに辿り着いた。しかし、その時の犬はと言えば、本当に物凄い剣幕で吠えたてていた。
 バリのタナロットという、満潮時には海中から聳えている岩の天辺に寺院のある、有名な観光地がある。夕日が沈むのが絶景な場所として有名なので、夕方以降の観光地である。ある時早朝の散歩で、近くにあるホテルから海沿いにタナロットの夕日を見る場所に紛れ込んでしまった。突然、未だ閉まっている観光店屋の裏手から数匹の犬が飛び出して来て、牙を剥いて吠えたてられた。まるで盗人扱いの、物凄い吠え様である。散歩を切り上げほうほうの体で回れ右をして逃げ帰った。
 バリも回教ではないので犬が多い。ある時バンリという、山の麓にある村をバイクで通過中に犬の飛び出しに遭い、不慣れな大型のレンタルバイクだった事もあり、ものの見事に犬をはねてしまった。可哀そうに多分犬はダメだったろうが、取り敢えずは何処かに走り去った。バリの犬は、走行中のバイクにも牙をむいて飛び掛かって来るのである。こちらはといえば、転倒してしまい大怪我をした。お陰で未だに冬の朝や梅雨時の湿気の高い日には膝が痛む。
 インドネシアの犬は、余程の金持ちのクリスチャンが家で大事に育てている以外は獰猛な野犬並みの犬が多い。特に夜分は飼い主が番犬とする為に放し飼いにしている事が多いので、道に飛び出してくる犬が多い。それに、未だ狂犬病が多い。ジャカルタで狂犬の野良犬を見た事があるが、もう大分弱っていてそれ程危険は感じなかったが、日常で目にする程度に狂犬が多い。僕は別に犬が苦手と言う事はないのだが、インドネシアの犬だけは要注意である。逆に回教徒は猫を可愛がるので、インドネシアの猫は不逞々々しくて可愛げがない。