baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 インドネシア旅行記(6) 〜 タナトラジャ(1)

 タナトラジャはトラジャコーヒーで有名な、スラウェシ島中部に位置する高地である。当時はウジュン・パンダン(今のマカッサル)から一日一便飛行機が飛んでいたが、定員12人のインドネシア国産機で、しかもしばしば欠航するのでマカッサルから陸路で行く方が確実である。とは言え途中からダートになる田舎道を10時間ほど掛けて揺られるのだから、楽ではない。電話では飛行機の予約が出来ないので、ウジュン・パンダンに着いてから帰りの便の予約に飛行機会社の事務所に立ち寄ったら、ノートに手書きで予約を受け付けている。しかも定員12名なので直ぐに満席になってしまう。ノンビリしたものであった。念の為、当時は既にコンピューターが普通に使われていた。上島珈琲がその昔、苦労してこの地にコーヒー農園を開拓したので、日本ではコーヒーで有名だがこの地には未だに風葬の習慣が残っている。宗教は公式にはイスラム教なのだが、実は土俗信仰が根強い。市場で豚が売られていて、日常的に食されていることからも、実際はイスラム教ではないのが看て取れる。

(豚市場。未だ生きているので、時々豚声とは思えないけたたましい雄叫びを上げていた)

 タナトラジャの言い伝えによれば、ここの住民の祖先は北から船に乗ってやって来たという。不思議なことに、タナトラジャの、トンコナンハウスと呼ばれる船形屋根の形はスマトラのトバ湖の中の島にある家の屋根と全く同じであり、高床であるところも同じである。パダンの船形屋根はもう少し豪華で重層式であるが、基本的な形状は似ている。一方スラウェシで船形屋根は僕の知る限りはタナトラジャだけである。となると、スマトラの部族が船でフィリピンの方へ向かったものが、嵐か何かの理由でスラウェシに流れ着いて、地元住民との軋轢を逃れて山の上に住み着いたのではなかろうか、と僕は勝手に思っている。

(集落に並ぶトンコナンハウス。現役の家である)

 そして、破風のように水牛の頭骸骨が飾られる。また、水牛の角だけが下の写真のように夥しい数取りつけられている家もある。真ん中だけでは足りずに両側にもぶら下げている。角の数は財力を表しているそうだ。スマトラの北部では犬の生首を破風にしている地域があったが、タナトラジャは水牛である。
          

 タナトラジャでは葬式が重要なイベントである。そこで、誰かが死んでも条件が整うまでは1年でもそれ以上でも、条件が整うまでは葬式が出来ない。それまでは、このトンコナンハウスで家族が遺体と一緒に生活している。勿論遺体が腐敗しないように、昔は防腐効果のある木の葉で遺体を包み、今はフォルマリンを1ℓ程注入するらしい。

この遺体は死後10ヶ月だと言っていた。家族が毎晩添い寝をする)

 前の晩はカラオケで敢えて徹夜して、翌朝5時頃のジャカルタ発の飛行機でウジュン・パンダンに飛び、そこから10時間かけて目的地のタナトラジャに到着した。もうヘトヘトである。明日はいよいよ風葬の墓場巡りである。