baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 首都高速からの俯瞰

 一昨日から、二ヶ月ぶりにジャカルタ出張である。
 自宅から成田へは新宿からリムジンバスに乗った。弁慶橋から千鳥ヶ淵にかけて、既に紅葉の時期は過ぎ黄色く枯れた木々と常緑樹の混ざった初冬の景色の中をバスは渋滞でゆっくりと進む。直に左手に日銀本店が見えてくる。石造りの建物に緑青で緑色にくすむ屋根は歴史を感じさせる重厚な作りである。周囲の生垣は見事に刈り込まれ、正面玄関前に聳えている三本の松の大木も良く手入れされ見栄えが良い。
 この建物の中で日本でも最高レベルの会議が持たれ、資金供給量、誘導金利率、為替介入などが決められている。数日前の急激な円高、それに対する民主党の幹部閣僚の日銀におんぶに抱っこの主体性のない発言、日銀総裁の極めて正直な発言、は市場に必要なインパクトを与えるには不十分で暫く混乱が続いた。日銀の現総裁を悪く言うつもりは毛頭ないが、やはり日銀総裁にはカリスマ的な資質も求められると思う。為替を口頭介入でコントロールしたりするにはやはり実力プラスアルファがあった方が間違いなく良い。その意味では現総裁は真面目一徹に見受けられ、はったりには向かない人柄のようだ。
 武藤敏郎の方が良くも悪くもはったりが利くように思う。現在のような緊急時には市場のコントロールに口頭介入は必要だし、口頭介入を効果的に実施するには押し出しもはったりも要る。もう口にする人はいないが、武藤人事を政争の道具にして参議院の数の暴力で潰してしまった民主党の過ちは実は未だに尾を引いているのである。その武藤は現在は野に下り民間機関の理事長としてまだまだ海外でも存在感を示している。何でもかでも天下りが悪い訳がない。それを分かりながら政争の道具にして有為な人材を潰そうとしている民主党の罪は重い。その上小沢一郎に気に入られていれば民主党は幾らでも原則を曲げて天下りを押し通す一貫性のなさに恥じ入る所もない。有為な人材は活用しなければ日本の損失である。許されないのは就任する人の能力に無関係にポストが特定の省庁の特定の地位の人に受け継がれる事である。それを敢えて区別せずに、自らの恣意のみを露骨に押し通しそれ以外の人事は無差別に潰す民主党の横暴と無節操は、本来許されざる事である。
 ある政治・外交の専門家がそのコラムで、日米安保条約を軽んじ責任の所在が曖昧な現在の民主政権を、外交に疎く日英同盟を破棄した政府、内政ばかりに目を向けて確執を続けていた陸海軍、そういう動きを煽るジャーナリズムと盲従する蒙昧な国民、その結果奈落の底に落ちてしまい無数の犠牲者を出した昭和初期のわが国の施政者、に例えて日本の行く末を危惧しているが、一見突拍子もないこの比喩が僕には酷く分かり易くぞっとする。
 バスは高架の高速道路を湾岸道路へと進むが、雲ひとつなく晴れ渡った空を見渡すと、北の空の低いところは赤茶色に色が変わっている。南の東京湾側を見ると空はどこまでも青い。風が無いこともあろうが、東京の北側の空気はやはり公害で汚れているのだ。ずいぶんきれいになったと思っていたが、まだまだ公害が空を汚している事を改めて認識した。暖房が始まった事もあるのだろうが、我々はもっともっと空を綺麗にする努力をしなければならない。他方、荒川や江戸川の水はゴミ一つ見当たらず、青々とした水が滔々と流れており心が和む。聞けば成田空港の近くの川にまでここ数年鮭が産卵に遡上してくるそうだ。結構な事である。
 7時間のフライトの後、無事にジャカルタに到着した。ジャカルタに着くと未だに何故かほっとする。雨季なので、雨が降ったばかりのようで思いのほか涼しい。折からの満月が雲間から出迎えてくれた。