baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 ユドヨノ政権100日

 インドネシアでは第二次ユドヨノ政権が発足して今日が丁度100日目になるそうだ。今日はジャカルタでは朝から大規模なデモが予定されていたのだが、蓋を開けてみたら今日は大したデモではなかった。むしろ不要不急の人が出掛けるのを控えてしまい、道はガラガラで拍子抜けであった。それでも国会前の幹線道路は一時閉鎖されたし、大統領官邸の周辺とジャカルタの中心にあるロータリーの周辺ではそれなりのデモがあったようだ。
 知り合いの若い経営者の話では、労働組合から各企業内の組合支部に今日と明日の二日間、従業員の10%をデモに供出するように檄が飛んだそうだ。彼の会社でも組合幹部から経営に要請が上がって来たので、10%は多すぎる、10%の従業員が抜けると工場が止まるからダメだ、という事とデモに出る人間の給料は払えないと回答したところ、今日は2000人の従業員から組合幹部の20人だけが参加していると言っていた。組合が未だ合法化されていなかったスハルト時代を知っている僕にしてみれば、組合の中央から斯かる檄が飛んできたり、企業内の組合から経営にこういう要請が上がること自体に隔世の感がある。
 労働組合のデモの目的は、ユドヨノ大統領の選挙公約が何も実現されていない、生活は益々苦しくなっている、という類の抗議であるようだ。別に農民のデモも組織されていて、こちらは最近中国との間で締結されたFTAに対する抗議である。中国からの安価な輸入品に対する恐怖はインドネシアでは全ての産業に共通しているのだが、農業も例外ではないようだ。しかしインドネシアには資源は豊富にあるし土地も労働力も豊富、且つ昨今の給与水準はむしろ中国の方が高いので、運送費などを含めて考えれば中国製品の無税輸入も本来それほど恐れる必要はない理屈なのだ。インドネシア労働生産性を初め効率をもっと高める努力をし、汚職を筆頭とする余分なコストの削減に一層の努力をしなければ、中国製品が無税で流れ込んで来ようが来まいが早晩世界から取り残されてしまう。
 何れにしても当地のデモは少しの費用で極めて簡単に組織できるので、背後にユドヨノ大統領の政敵が存在している政治的なパーフォーマンスであるのは間違いない。現政権反対派はセンチュリー銀行のスキャンダルと、今日の様な反ユドヨノ運動を梃子に国会での大統領罷免にまで持って行きたいようで、大統領罷免についても既に議論が始まっている。事実センチュリー銀行のスキャンダルでは大統領の人気がかなり打撃を受けているのは間違いない。特に中間所得層の大統領離れが顕著だと言われている。中間所得層は利権には無関係のインテリ層であるから、反権力に走りやすいのは何処の国でも同じで、インドネシアの新興中間所得層も例外ではないようだ。しかし、現在の大統領に代わる人材が見当たらないし、大統領が創設した民主党が国会の第一党を占めているので、実際には今日のようなデモもガス抜き程度の影響しかないであろう。
 現在の大統領に対する評価は勿論人により振幅は大きいが、総じてスハルト以降の大統領の中では一番評価が高い。ハビビとメガワティが実質何もしない大統領であったから、畢竟グスドゥールとユドヨノの評価は高くなる。ところがグスドゥールは世界に目が開けた稀有のインテリであった反面、元来宗教家なのでその手法が政治には不向きであった上に視力が殆ど無い事を悪用され色々失政もあったので、ユドヨノの評価が高いのはある意味では当然なのである。とは言え、リーマンショックの影響も上手く切り抜けて経済は好調に推移しているし、海外での存在感も徐々に取り戻し特にアセアンでのインドネシアの存在感は戻って来ている。主要国とのFTAを積極的に推進したり汚職撲滅にも多少なりとは言えそれなりの成果も出ているので、相対的に高い評価が与えられるのは当然である。昨今は最大のウィークポイントであった国軍の支持も取り付けたようなので、今後も比較的安定した政権が続くと思われる。
 そして恐らくは次期大統領も軍人から選出されると僕は思っている。インドネシアの最大権力は相変わらず国軍が握っており、軍幹部は海外留学を経験しているインテリ揃いである。民主化が道半ばの新興国家では時には力による統治も必要であるから、インドネシアでは当面軍人上がりの大統領が一番向いているというのがスハルト以降の全ての大統領と接してきた僕の見立てである。そしてこれが今の所大部分のインドネシア人にも共通している考え方のようである。