baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 ギナンジャール氏の講演会を聴く

 今日は日本アセアンセンターでギナンジャール氏の講演会があったので聴きに行った。もうすぐ69歳というお歳には見えない、相変わらず若々しいお姿であった。熱帯のインドネシアの人は歳をとるのが早いので、むしろ驚異的な若さであった。
 ギナンジャール氏はスハルト政権時代の鉱山・エネルギー大臣や開発庁長官、経済・財務調整大臣などの要職を務めたインドネシア有数の政治家であり経済人である。また一時はスハルト体制下の旧世代人と目されていた時期もあるが、スハルト政権崩壊後も地方議会(DPRD)議長を務めるなどしてその存在感をアピールした。
 スハルト政権崩壊後、一時鉱山・エネルギー大臣時代のスキャンダルで検察の捜査が入り、亡命同然に米国に脱出していた時期もあるのだがそのスキャンダルも有耶無耶のまま結局見事に復権した。実は1960年から65年まで農工大に留学されていて、日本語も頗る堪能である。僕はジャカルタスハルト政権崩壊前後に事務所や自宅にお訪ねして何度か面談している。妹さんも日本に留学していて、共に日本語が堪能な親日家一家である。
 今日の講演はインドネシア語であったが、今日も講演中に通訳が誤訳するとわざわざその部分だけ繰り返したりして、通訳もやり難かったであろう。もっとも通訳もかなり誤訳や省略が多くて少し覚束なかったのも事実である。聴衆には随分在日インドネシア人が見受けられた。大使館関係の人は勿論であるが、留学生やこちらで仕事をしている人もいたようである。
 講演はパワーポイントを駆使した1時間半に亘るもので、インドネシアの経済に関する詳細な説明はもとより、汚職の問題、民主化の進展、日本との関係強化に必要なポイント、インドネシアの今後5年間の政策目標、イスラム教徒の実態、等々広範な分野に亘る講演で極めて聴き応えがあった。特に印象に残ったのは、インドネシアは世界最大のイスラム国家であるが、同時にイスラムのテロリストに標的にされている国であるという事、インドネシアは中国、インドに次ぐアジアでは3番目に成長している国でありG-20でも15位か16位にランクされる成長株であるという事、またフリーダムハウス地図ではアセアンでは唯一の民主的な国家にランクされている(シンガポールやマレーシア、タイもまだそこまで行っていない)事などである。スハルト体制崩壊後、ハビビ、グスドゥール、メガワティと続いた3代の大統領は何れも任期中途で引き継いだり弾劾されたりして一人として任期を全うした大統領はいないが、確実に民主化への道を歩んだ移行期間である。2004年の大統領直接選挙で選ばれたユドヨノ政権下で憲法改正も行い、初めてポスト・スハルト体制が始まったと言う見かたは当を得た見方であろう。
 石油、石炭他の鉱業で中国が異常にインドネシアで動いているという警鐘は傾聴に値する。日本は従来からODAなどを通じて莫大な援助はしてきたのだが中々顔の見える成果に繋がらず、従い政治的にも実体に比して目立たない存在で在り続けた。ODAでも民間の直接投資でも、日本は対インドネシアでは世界第一位の座を保っているにも拘わらずである。そして中国のように実利を追求する大国の陰に霞んでしまう。別に実利を求めるのが正しいとは思わないが、大事な税金を投入するからには脂肪の塊も如何なものかと思う。予算が益々削減されてODAも従来のようなバラ捲きが出来なくなっているのだから、ある程度集中して且つ顔の見える援助に切り替えていかなければならないと僕も常々思っているのだが、奇しくもギナンジャール氏も援助を受ける側から同じような観点から警鐘を鳴らされていたのだと思う。
 アセアンでは最大の国であり経済的にも将来性の高いインドネシアとは、今後益々密接な関係を築いていかなければならない。東アジアでは戦後60年経っても未だに第二次大戦を清算しきれていない中で、対日感情の良いインドネシアは末長い日本のパートナーである。
 講演後、日本人の質問者がジャカルタのモノレール事業はどうなっているのかと質したのに対し、「モノレールはもう出来あがっていますよ」。一同怪訝な面持でいたところ、「但し柱だけです。柱はもう完成しているのですが、肝心のモノレールはまだ姿も形も見えません」とのユーモアに溢れる回答にインドネシア語の分かる人達は爆笑した。