baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 遺失物

 ここの処他人の事を馬鹿だの何なのと罵っていたのにバチが当たり、今日は高価な落し物をしてしまった。天罰覿面、他人の悪口を言ってはならないと言う母親の戒めを想い出したが後悔先に立たずである。
 20年来使ってきた、インドネシアでも苦楽(?)を共にした、僕専用の料理包丁の持ち手の部分が錆で膨れてしまい、ついに持ち手が外れてしまった。包丁の部分はきれいに黒錆になっているのだが、持ち手の黒壇に挟まれた部分が錆びて膨れてしまった為に、両側から挟んでかしめてある持ち手が外れてしまったのである。老舗の刃物屋に問い合わせたら、錆が酷くなければ自分の処の製品に限り持ち手の付け替えは可能との事なので、夕方になって日本橋まで持って行った。
 見て貰ったところ、持ち込むのが遅過ぎてもう修理は難しいと言う。20年間、砥ぎながら大事に使ってきた包丁なので、本体部分は未だしっかりしているし捨てるのは忍びない、何とかやってみて欲しい、結果は保証しなくても良い、と頼んだが面倒なのであろう、どうしても引き受けて貰えなかった。仕方がないので同じ包丁を新しく購入して帰って来た。もっと早く持ち込んでいればと悔やまれた。
 ところが今日は、愚かなだけではなくどうもツキにも見放されていたらしい。新しい包丁と古い包丁を紙袋に入れて貰った物を、バイクの荷台にネットを掛けて挟んだのである。古い包丁を持って行った時は、単に挟むだけではなくネットで一捲きしたのだが、帰りは二本の包丁で厚みがあったので大丈夫だろうと高を括ってそこまで慎重にしなかったのがいけなかった。家に帰ってみたら、古い包丁しか残っていない。逆だったら未だ諦めもつくのだが、新品の、しかも仕上げ砥ぎを丁寧にして貰ったばかりの包丁を何処かで落としてしまったのだ。
 日本橋から家に戻る道中でネットの目を抜けて落ちたとしか考えられないが、片道一時間程の道程だから探しに行く気力も無い。まず出て来る事はあるまいが、それでも安い買い物ではなかったので、万が一という事を考えて警視庁の遺失物係へ電話を入れて見た。そうしたらテープで、お決まりの質問に数字で答える方式で絞り込まれた挙句に、道路か建物での紛失は最寄りの警察署の遺失物係に直接問い合わせるように、とのご宣託である。
 区だけでも5区に跨る道路沿いの最寄り警察など、知る筈もない。さてさてご親切な事と思いながらも、思い付いて麹町警察署に電話をしてみた。以前、警視庁の受付で相続した日本刀の鑑札の名義変更の問い合わせをした時に何とも酷い応対を受けたので、正直多少覚悟を固めて電話をした。ところが、麹町警察署の相談窓口の男性警察官は丁寧且つ親切な応対で、大変気持ちが良かった。警察官は偏に横柄な「おいっ、こらっ」警官だけではなかったのだ。
 状況を概略説明したところ、一番良いのは最寄りの警察署か交番に遺失物届を出す事だと教えて呉れた。さらに警視庁のHPでも遺失物を探す事は可能だが、こちらはHPに載るまでに時間が掛ると親切に付け加えて呉れた。先ず出て来る事はなかろうが、打てる手だけは打っておこうと近所の交番に遺失物届を出しに行った。若い警官が応対してくれて、遺失物が包丁と聞いた時には一瞬緊張が走ったが、未だ開封もしていない、お店の包装のままと説明したら緊張も直ぐに収まった。早速所轄署に電話で照会してくれたが、未だ紛失してから2時間も経っていないし、そもそももっと日本橋寄りで落としたと思うので、勿論該当品は届いていなかった。
 しかし物騒な物を落としてしまったものだ。近所の交番の警察官の緊張振りを見て思い到った。犯罪にでも使われたらどうしようか、などと余計な心配が出て来た。返すがえすも慎重を欠いた、愚かな事をしてしまったと反省しきりである。