baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 物の値段と価値

 ここの処民主党の議員が「高い」「高い」と口角泡を飛ばしているニュースが多い。一つは勿論事業仕分けであるが、都議会でも同様な光景である。物の値段が高いか安いかの議論はキリがない。売る方にしてみれば後から高いと文句を言われる程始末の悪い事は無い。高いと思うなら初めから買わないでくれ、買ったからには文句は言わないでくれ、と言うのが本音である。しかしオリンピック招致運動を請け負った博報堂はそうも言えないので偉い人が都議会で苦しい答弁をしていた。
 特に映像とか美術品とかはその労働の価値に尺度がないから高いと思えばべらぼうに高くも思えるし、安いと思えば安くも思える。作る方から言えば、受注金額に応じて手間暇コストを掛ける事もあるだろう。だから後から高いと言われても本当に困ると思う。そんな物が政治の駆け引きの道具にされてしまったのだから、博報堂にしてみれば説明のしようもなく良い面の皮であろう。
 また、IOCの委員には色々な国の出身者がおり、其々の国の文化があるから、とても正面攻撃だけでは招致は出来ないだろう事は想像に難くない。かと言ってそんな事は表だって云々できないから畢竟誰かが建て替えざるを得ない。そんなコストも入っているのかも知れない。そういう事は小沢一郎を頂く民主党議員ならよくご存じだろうが、敢えて知らぬふりで招致委員会を追及しているものか、はたまた経験不足で本当にご存じないのか。何れにしても都議会の件は、僕自身プレゼンテーションフィルムの類の物の値段は分からないし、それ以外に何かからくりがあるのかどうかも分からないから、落ち着く処に落ち着けば良いと高見の見物である。
 しかしながら、この手の価格は事前の取り決めをファイナルとするのが原則である。後出しの文句はフェアーではない。それを駆け引きの道具に使う民主党都議は政治の場である限りある程度は仕方がないと思うが、それを受けた石原慎太郎が、博報堂の価格を見直したら良い、などと言い出すのは石原慎太郎らしくない。悪い事をしたと思っていないのなら民主党ひよっこ議員など一喝する方が似合っている。流石の石原都知事も捻れ議会に疲れたものか。
 僕は現役時代は機械を売るのが主だったので、後からクレームは良くつけられたが、決めた値段で揉めた経験は殆どない。と言うのは機械には大体相場があるからである。そんな中で屡揉めたのが技術指導の斡旋であった。技術指導と言うのは基本的に労働が形で残らず、受け入れ側の技術者の能力の向上にあるのだから、ある意味美術品や映像よりも更に始末が悪い。音楽家と同じである。だから、働いてしまった後から高いと文句を言われてもどうしようもない。間に立って技術者を斡旋した側から言えば、この人の経歴なら決して高くないと思うのだが、特に貨幣価値の異なる新興国からしてみるととんでもない玉を引いたと思う事もあるらしい。技術者のレベルが高過ぎて相手側にマッチしていない時や、コミュニケーションが上手く取れない時などは殊更摩擦が激しい。また、日本人技術者が基礎の手ほどきや従業員のモラル向上などから始めて長期的なレベルアップを図る傾向が強いのに対し、新興国の経営者は短期間で利益に直結する成果を欲しがるケースが多いのも我々の頭痛の種であった。こういう時に、既に働いてしまった技術者の費用を後から値切られたり、契約期間を一方的に短縮されるのが一番困った。
 今日はニュースで裁判所内でのコピー取りを一手に引き受けている司法協会とかいう法人のコピー代1枚50円が高いとか妥当だとかの議論の挙句に最後は廃止という結論になったようである。何が廃止になったのだか、実はろくに見ていなかったので分からない。初めから答ありきの事業仕分けには余り興味は持てないのである。しかしコンビニで自分で取っても1枚10円はその通りであるが、人手を掛けてコピーを取り、それをバインダーに綴じて指定の場所まで台車で運ぶ手間暇と法人としての若干の利益を考える時、一概に50円が高いとは言い切れないのではないか、とふと思った。勿論高いかも知れないが、もっと仕事の内容や、場所代は誰が負担しているのか、コピー機はどのレベルの物が置かれているのか、カラーかモノクロか、どういう状態の書類からコピーを取るのか、バインダーなどのコストはどうなっているか、守秘にどの位のコストを掛けているのか、などが分からないとただコンビニなら10円という発想は片手落ちだと思ったのだ。
 民主党事業仕分けは財源を捻り出すのが至上命令で因縁でも何でもつけて値切ってやろうという魂胆だから、余りその阿漕な遣り口に腹を立てても仕方がないのは分かっている。しかし、こういう業種こそ一社独占ではなく複数の業者を入れれば公平な価格設定が可能となる一番簡単なケースだと思うのだ。別にそこに司法協会が居ても構わない。平場で価格競争して生き残るのならそれで良い。但し仕事が仕事だから業者の身辺調査と従業員の守秘義務に遺漏があってはならないであろう。とにかく、1枚50円が高いの安いのという根拠の曖昧な議論ではなく、公平な制度を作り民間の業者にも門戸を開いて競争させれば良いのである。最終的にはそういう結論に持って行って欲しいものである。民間の業者が入れば、大体何でも安くなるものだ。