baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

「はやぶさ」の帰還

 小惑星探査機「はやぶさ」が無事に帰って来た。7年前に打ち上げられた時には随分と胸が騒いだものである。無事に小惑星の砂を持ち帰って欲しいと願ったものだ。ところが余りに時間が掛り、段々記憶が薄れていった。
 それが、打ち上げ後3年経ってから小惑星「いとかわ」へ接近した。それだけでも物凄い快挙と、また胸が高鳴った。徐々に接近して、無事に着陸した時はやんやの思いであった。地球から3億キロも離れた長径500m程度の、本当に小さな岩みたいな惑星に地球から3年も掛けて着陸したのである。
 ところが着地する時に弾丸を発射して舞い上がる砂を採取する予定だったものが、予定通り弾丸が発射されなかった。しかも着地してから姿勢が崩れて転倒してしまった。果たして離陸できるのか、気を揉んだものである。砂の採取は出来たかどうか分からなかったが、それ以上に地球に戻る為には先ず離陸しなければならない、その為には起き上がらないといけない。3億キロも離れた先で、小さな探査機が地球からの指示で必死に起き上がろうとしている様が目に浮かんだ。その地球からの指示も、16分半も掛らないと届かない計算である。往復33分も掛る、忍耐強い操作だった筈である。
 何がどうなったのか、その中に離陸に成功した。またまたやんやの喝采である。予定ではそれから1年位で地球に戻る筈ではなかったろうか。ところが暫くしたら通信不能に陥ってしまった。僕は隕石でもぶつかったかと思った。しかし姿勢制御が出来なくなって地球との交信が途絶え、更には太陽に対する姿勢制御ができなくなったのでソーラー発電が出来なくなり、探査機全体が零下50℃に凍ってしまっていたそうだ。宇宙の温度は成層圏と同じ零下50℃程度だと言う事を初めて知った。
 もうダメだろうと思ったのだが、これも2ヶ月程度で何とか制御が出来るようになったと言う。ところが次はエンジンの故障である。4基あるエンジンのうちの3基までが故障して動かなくなったと言う。今度こそもうダメだろうと思ったのだが、また残った1基を何とかコントロールして地球に戻すと言う。気の遠くなる作業の連続であったろうに、それを忍耐強く凌いだJAXAのチームに脱帽であった。最近聞いた話だが、万が一のエンジン故障に備えて、僅か1g程度の細い管のような部品を追加してエンジンを連結させておいた知恵があったのだと言う。日本人の知恵と工夫は健在だったのだ。
 1基のエンジンでトロトロと地球に向かって頑張っていた探査機の事も、その中にまた忘れてしまった。最近では金星探査機「あかつき」や宇宙ヨット「イカロス」などのニュースが「はやぶさ」に取って代わっていた。ところが極く最近になり動画が大ヒットして観客が涙するというニュースを見て、地球帰還が近付いたのだと思い出した。もう地球を発ってから7年の歳月が経っているそうだ。当時生まれた子供はもう小学2年生になっているのだ。たださえ馬力の小さい省エネエンジンで無事に地球への軌道に乗れるのか、不安であったがこれも無事に乗り切った。
 そして「いとかわ」の砂が入っているかも知れないカプセルの大気圏への放出である。アメリカのスペースシャトルは耐熱タイルで全身を覆っているが、しょっちゅう剥離脱落している。「はやぶさ」のカプセルはカーボンファイバーをプラスチックで固めた鎧が耐熱装備だそうである。最高温度2万度の高温に20秒だったか、耐えなければならない試練である。もちろん未だ実績はない。「はやぶさ」が大気圏で燃え尽きたように、この耐熱装備が不完全ならカプセルもまた燃え尽きてしまう。
 昨晩の「はやぶさ」とカプセルの地球帰還のニュースは圧巻であった。花火のように大きな燃え盛る火玉と、大きな流星が並行して飛んで行く姿は形容の言葉が無い程の感激の一瞬であった。そしてカプセルは無事に落下傘が開いて予定通りの地域に着地し、微弱電波で居場所を知らせていたと言う。その場所はアボリジーニの聖地なので、アボリジーニが事前にヘリコプターで現地を視察して回収を許可して貰ってから、今日の午後無事に回収出来たそうだ。
 7年に亘る60億キロに及ぶ大航海の末、数多の故障を乗り越えての無事の帰還には無条件で祝杯を上げたい。日本の宇宙開発技術も世界一の水準にある事が証明された。月以外の惑星に着陸して地球に帰還した探査機は史上初であると言う。しかも上手く行けば砂まで持ち帰っている。何と誇らしい事か。世界一と言う事は、日本人に誇りと自信を与えてくれる。何故「世界一」でなければならないのかが分からない某大臣も、今度ばかりはその意義がしっかり分かったのではなかろうか。日の丸に胸を張って、日本人である事に感謝である。それにしても、JAXAが東京駅に開設している広報設備が、事業仕分けで廃止される事になったのが残念である。