baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 国内産業の空洞化

 食品大手が軒並み国内の工場を集約して効率化を図ると同時に、海外での投資を拡大するというニュースがあった。言い方はともかく、紛れもない国内産業の空洞化が一層進んでいるという事である。その背景には国内の少子高齢化と人口減による内需の落ち込みが予想される事があると言う。しかし確実に工場が減った分だけ雇用も減る。そして関連業界の売上も減る。そこには亜鉛鉄板やアルミはもとより、紙やフィルム、コンテナーなどの素材、更には印刷、運送業に到るまで広範な業種に影響が出る事は避けられない。
 一方で海外投資は拡大すると言う。以前にもこのブログで書いた事があるが、海外で製造する事が必ずしもコストダウンに繋がるとは限らない。例えば海外で間違いなくコストが安くなるのは一人当たりの人件費であるが、一人当たりの生産性を考えれば見掛けほどのコストダウン効果が出て来ない。
 以前インドネシアで繊維産業が進出検討をしていた時の話だが、当時日本では織り子一人で織機40台を持っていたのにインドネシアでは僅かに4台が標準であった。別の話だが、ある時紡績の女工が、紡績機械1台を担当していれば良かったインドネシアから日本の紡績工場に研修で派遣された。出掛けるまでは憧れの日本に行けると大張りきりであったが、一年後に帰って来た時にはもう日本には二度と行きたくないと言いながら帰って来た。理由を聞けば、日本は街はきれいで物は豊富だし皆親切にしてくれたので生活に文句はなかったが、日本の紡績工場では一人で紡績機械を8台も持たされた。慣れたら何とか出来るようになったが、あんなに疲れる仕事は給料が多くてももう厭だと言うものであった。給与の単価が安くてもそのままコスト計算に当て嵌める訳にはゆかないのである。
 そして、大変なのが管理である。幾ら日本で優秀だった管理者が赴任してきても、現地でも優秀とは限らない。むしろその逆のケースが多い。日本で優秀だったエリートはどうしても、日本式を押しつけてしまうから反発が強くて現地従業員と上手く行かない。余計な軋轢は当然コストアップに繋がる。下手をすれば、ソニーインドネシアの様に撤退を余儀なくされる事すら起こる。ソニーインドネシアでは労働生産性を上げる為に家電工場の工員に、それまでの座って作業する事から立って作業する方式に切り替えた。これが工員の反発を招いてストライキとなり、折からの民主化運動の逆風もあってついには工場再開の目途が立たぬまま撤退に追い込まれてしまったものである。高速沿いの20haの敷地に整然と立つ最新工場が閉鎖されてしまった。
 また現地の習慣や文化との軋轢もコストアップの原因となる。例えば税である。日本では普通のサラリーマンだった人が現地に赴任して来ても、脱税を考える人は一人もいまい。日本で脱税を図るのは、小沢一郎鳩山由紀夫SFCG会長のように、政治家、資産家、会社のオーナー位であり一般人にはそんな頭は働かない。ところが海外、特に人件費の安い発展途上国では企業は脱税するのが当たり前である。だから税務官は幾ら正直に記帳してあっても絶対に信用しない。裏帳簿があるのが当たり前で、帳簿一つという経理がある事など端から想像の埒外だからである。結局最後には訳の分からない追徴課税があるのが普通である。或いは購入品の納期や品質が不安定で、在庫を沢山抱えていなければ安定操業が維持できないという事もある。
 勿論海外での生産が有利な業種もある。例えば短納期が必要な物、新鮮さが売りの物、製品単価に比して輸送費が高く付く物、原料が地元にある物、労働集約産業で日本では最早労働力の確保が出来ない物、多品種小ロットで工場が遠隔地にあるとフォローし切れない物、等々が上げられる。しかし、一般論としては海外進出には日本とは異なるコストアップ要因が多々あり、必ずしも総体的にコストが安くなるとは限らないのである。
 従い、日本が国内産業の競争力を上げる施策を早期に打てば、今の様に一本調子で空洞化が進む事はあり得ない筈である。今話題の法人税率のみではなく、電気代や環境対策、燃料費などのインフラコスト、柔軟な労働力供給、港や空港の使用料、等を見直して総合的な競争力の強化を図れば、日本の優秀な労働力とその高い生産性はまだまだ「物作り日本」を背負って立てる実力がある。但し、この手の施策は効果が出て来るまでに何年も掛るから、一刻も早く始め、そのままブレずに辛抱する必要がある。