baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 金賢姫の来日

 少し古い話になったが、先週、大韓航空機爆破事件で死刑宣告された元北朝鮮工作員金賢姫が来日した。厳戒態勢下で、日本政府が用意したチャーター機での来日である。北朝鮮工作員がウロウロしている日本であれば、厳戒態勢は当然である。そして取り敢えずの滞在先は、軽井沢の鳩山由紀夫前首相の別荘であった。その別荘で、拉致被害者である田口八重子の長男である飯塚耕一郎や、横田めぐみの両親や弟など、7人の拉致被害者の家族と面談した。
 今時何の為の来日だったのか、良く分からない。拉致に関わる新事実の証言は出なかったと言うことだが、北朝鮮を離れて既に23年も経っているのだから新事実などが出る筈はない。ただ、拉致被害者の家族にしてみれば、北朝鮮金賢姫が共に過ごした自分の家族の事を、少しでも直接聞ければ何か新しい話もあったかも知れないし、やはり外野の人間には理解できない感慨があっても不思議はない。拉致被害者の救助どころか、未だに拉致事実の確認すら出来ない日本政府が、被害者家族にこの程度の事をするのに僕は別に反対はしない。国会議員の物見遊山の海外視察に比べれば安いものである。
 金賢姫はと言えば、死刑を恩赦で免れてからも、常に北朝鮮工作員に命を狙われ、韓国でも大韓航空機爆破事件の被害者家族からは未だに恨まれ、特に北に近かった盧武鉉大統領時代には随分辛い目に遭ったと聞く。家も質素な処に移り、それでも日々の生活にも事欠いたという話も聞いた。そして常に外界との接触は制限されていると言う。大量の人命を奪った挙句に死刑を免れたのだから、それでも未だ恵まれていると言えばそうかも知れないが、金日成総書記に洗脳されて、若くして工作員に仕立て上げられた犠牲者である事は間違いない。こういう人にこそ「罪を憎んで人を憎まず」と言う言葉があるのだと思う。
 それにしても、何故今頃の招聘であったのか。菅政権発足以来、参院選での大敗以外に何ら政治的動きが見られない民主政権のパーフォーマンスであるという見方が最も分かり易い。メディアからはそのVIP待遇に批判も出たが、中井洽拉致問題担当相は自画自賛であった。メディアも、何もあそこまで追っかけまわさなくても良かろう物を、VIP待遇にした一半の責任はメディアにもある。新情報が出る見込みもない、民主政権と金賢姫の、それぞれの思惑に基づくパーフォーマンスに乗り、それ程のニュースバリューもない事を連日報道しておいてVIP待遇に対する批判もないものである。
 何れにしても、拉致問題をお蔵入りさせてはならないと思う。イスラエルと並ぶ世界最悪のテロ国家、北朝鮮の追及を緩めてはならないし、ひょっとしたら未だ生存しているかも知れない拉致被害者の救出を諦めてはならない。今般の出来事は、我々にその思いを新たにさせる効果はあったであろう。同時に、テロ国家の犠牲者として、拉致被害者と同様に一生を棒に振っている金賢姫にも同情を禁じ得ない。テロや専制国家は絶対に許されないという思いを新たにした、金賢姫の来日であった。