baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 噴火も津波も大災害に

 ニュースが遅いインドネシアでは、昨日のブログを書き上げた頃には未だ分からなかったのだが、実は昨日のメラピ山の噴火も西スマトラ津波も大惨事になっていた。夜遅くなってから、テレビではメラピ山の災害のニュースが流され続け、死体の搬出作業や、心肺停止と思しき、ピクリとも反応しない犠牲者に蘇生術を施している救急隊員、大火傷を負った村人たちの様子や病院での救急手当の様子、死亡者の大写し、などが何度も何度も流れていた。死傷者は殆ど例外なく火傷によるもののようである。そして死者数は間違いなく未だ増えるであろう。インドネシアの医療水準では重症の火傷患者を救う事は難しい。また、逃げ遅れた人がこれから段々に発見されるであろう。
 メラピ山は中部ジャワにあるので、インドネシアの中でも一番インフラが発達している地域に属する。従い避難勧告も早めに出されたし、今回の噴火は近来になく大きそうであるという予報も出ていた。避難所も既に事前に準備されていた。それでもジャワ時間の12時現在で25名もの犠牲者が出てしまった。犠牲者は全て避難勧告を拒否した村人達である。しかも未だ引き続き、この数十年間で最大の噴火が起きる可能性が指摘されている。被害の大きかった村では、分厚い火山灰に全てが覆われて景色は灰色一色となっており、残っている家も屋根は完全に抜けてしまっている。噴煙が激しく、恐らくは火山灰で上空も見えないのであろう、肝心のメラピ山の活動状態は近くの地上からでは全く分からない。遠景では赤い炎のようなものが火口から吹き出ているのが見える。
 インドネシアでは地震津波、噴火に関わる予報の精度が低いので、人々はしばしば無駄な大騒ぎをさせられる。恐らくは村を空けている間に泥棒も入るであろう。今回も、そんな無駄はしたくないと思っている処へ、一部の地域で地元の長老が経験から、今回の噴火は大した事はないと予測したものだから地元住民が避難を拒否してしまった。ところが何度目かの噴火が大噴火で、多数の犠牲者が出てしまったもののようである。この長老もテレビに映されていたが、白いイスラム帽を被った小柄な老人であった。分厚く積もった火山灰の中に横たわる遺体の映像も出てきたが、遺体の上には厚く灰が降り積もっており、まるでポンペイの遺跡を見ているような錯覚に襲われた。
 一方のムンタワイの津波被害は気の毒である。保健省の発表では死者113人、行方不明150人と言うことだが、西スマトラ州知事は502名の行方不明者がいると発表している。一方で、行方不明者の中には津波を逃れて高い場所に逃げていて、連絡が付かなくなっている人々が含まれているという話もある。インドネシアではこの手の数字は何時でも大きくブレるので、要するに多数の犠牲者が出たと言う事である。サーフィンに行った日本やオーストラリアの観光客もいたようであるが、こちらは幸い暫くしてから生存が確認されたようである。
 ムンタワイは幾つかの島から出来ている地方で、スマトラ島から中心の島までボートで12時間程掛かる辺鄙な場所にある。住民は基本的には自給自足で、西パプア州の石器人程ではないが、奥地に入れば未だに相当原始的な生活をしている事で知られる。人々は鳥モチで器用に鳥を捕らえ、弓矢で猟を行い、サルのミイラを作る風習があることなどでも知られている。昨今はサーフィンをやる人の間ではポピュラーな場所であるようだ。僕も駐在時代に是非一度尋ねてみたかったのだが、ジャカルタからは往復に時間が掛かり過ぎるのと、いざとなると少し勇気のいる旅行なので、結局実現しなかったものである。そういう場所なので、既に災害発生から丸一日経っているが、未だテレビには携帯で撮った様な粗れたスチール写真が若干写される程度で、生々しい現地の状況は一切出てこない。未だクルーが到着していないものと思われる。
 当然の事ながら現地のインフラは不十分で、昨日も僕がブログを書いている時には津波警報が発令されたというニュースが最新であったのだが、津波警報は発令後一時間で取り消されていたそうである。しかもそういう警報がどこまで末端の人々まで徹底されていたかと言えば、甚だ怪しいものである。結局地震の大きさはリヒタースケールで7.5と言う大きな地震だったようであるが、津波警報が取り消された時には既に津波が発生していたと言うから、お粗末と言えばお粗末な話である。しかし、気象庁によれば津波の計測機器自体がこの地域には全く設置されていないそうで、一番近い西スマトラの機器の計測結果から予測するしかなかったので、予測が不正確であったと言うことである。勿論言い訳なのだが、それが事実であれば現場が気の毒な気もする。
 インドネシアには地震の多い地域が沢山あり、かつ島嶼国で周囲を海に囲まれているので、地震津波の災害が後を絶たない。地震津波のしっかりした観測設備が設置され、且つ警報が迅速に末端にまで徹底されるシステムが一刻も早く整備される事を祈るのみである。日本も、発達している予報技術の供与や、人工衛星での観測結果の提供、警報の伝達設備の援助、などで、出来る限りの支援を続けて欲しい。自然災害が発生する度に、何時も何時も多数の純朴な命が奪われるのを見るのは忍びない。