baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 芸大美校の卒業創作展

 今日は節分、明日は立春だからか、突然狂ったように暖かくなった。1月の、凍え付く様な毎日が嘘の様な気候である。建国記念日位まではこの暖かさが未だ続くらしい。久しぶりの気候に誘われて、今日はバイクで上野に出掛けた。寒さに馴れた体には、冬の格好をしていると汗ばむほどの陽気である。バイクも久しぶりに走らせて貰って、歓喜しているように快調に吹き上がる。
 行く先は東京芸大の美校である。親戚の子が卒業創作展に彫刻を出品していると言うので見に行った。校門の守衛に「バイクは入れません」と断られたが、頼みこんで何とか入れて貰った。実は美校に入るのは初めてである。若い頃に音校には何度か行った事があるが、美校には今まで縁がなかった。守衛に指示された奥の方にバイクを駐めて、彫刻の展示館に赴く。幸い入口で友達とお喋りしていた親戚の子とばったり巡り合う。挨拶して館内に入ると、先ず眼に飛び込んだのが自画像である。
 自画像と言っても、耳を切り落としてまで写実に忠実だったゴッホの自画像とは異なり、写真もあれば主観的な作品もある。中には上半身裸の女性の自画像写真もある。もっともメークが奇抜で、素顔は想像も付かない。自画像を見比べているだけで、その生徒の性格が見えて来る様であった。
 更に中に入ると、卒業作品が所狭しと展示してある。極めて写実的な木彫があるかと思えば、ガラスで等身大の作品を作り上げたり、瀬戸物で等身大の焼き物を創っている。中には素材が何だか分からないものもある。写実的な物もあれば、幻想的なものもある。何かに憑かれた様な作品もあれば、発光する現代アートもある。どれを見ても若い感性に触れて、何とは無く胸が躍る。
 一階の作品を見終わって、三階の会場へ歩を進める。三階は一階に比べて大作が多いのか、一人で一教室を占領しているような展示方法である。外部からの光を計算した作品もあれば、何処かで見た事があるような陳腐な作品もある。どれも同じ顔をした、能面のような木彫の面を並べた展示物があったので、型押ししたコピーを並べたのか思ったら一つ一つが木彫であった。全部で108ヶも並べてあったから、大変なエネルギーであったろう。グロテスクな作品もあった。楳図かずおのような意匠もあれば、水木しげるを彷彿とさせる作品もあった。どれも若さを感じさせる、奔放な想像力である。しかし、どうにも正視できないドキッとさせられた作品が一点だけあった。自分の体にボンドを塗って剥がした、人体の皮のような奇妙な作品である。ご丁寧に毛髪まで付けてある。一目見ただけで、メダンの飛行機事故を想い出してしまった。瞬時に、遺体置場の耐えがたい腐敗臭まで蘇ってしまった。悪寒に耐えながら足早に次の部屋に移動した。
 全部見て回ったのに、肝心の親戚の子の作品が見当たらない。見落としたかと思い、逆回りに再度見て歩いたが、やはり見当たらない。途方に暮れかけたら、件の人物が入口で待っていてくれた。なんと彼の作品は屋外に展示してあったのである。大理石の、ギリシャ彫刻を彷彿とさせながらも現代の意匠である。未だ粗々しいが、キラリとした燦めきを感じさせる清々しい力作であった。小春日和の、若者の息吹に触れる楽しい展示会であった。