baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 バリ舞踊〜NHKの番組を見て

 NHKのBSテレビでバリの舞踊に挑戦したバレーダンサー、首藤康之の番組をやっていた。読者の中にも観た人がいると思う。僕は普段は余りテレビは見ないが、バリの番組と言う事と、舞踊というちょっと興味のある分野だったので見る事にした。僕はバレーには全く暗いのだが、首藤は世界的なトップダンサーだそうである。冒頭のバリの風景、緑濃い木々の中に点在する素朴な家々が、夕陽に輝く水平線が、いきなりバリの臭いや肌に纏わる空気を五感に蘇させる。温かくて根明かで、ちょっとはにかみ屋だが根は人懐っこい人々が懐かしい。庭の片隅の木に咲く白い花や、甍に寄りそう緑が郷愁を誘う。素朴な通りの風景が、村々をバイクで走り抜けた昔を思い出させる。また無性にバリに行きたくなってくる。
 首藤康之の顔は、中高で彫が深く、頬に皺が刻まれる。バリ舞踊の仮面に正にこんな顔がある。首藤とバリダンスの組み合わせは決して無理がないようである。その首藤が、高名だと言うバリ舞踊の名手に弟子入りするところから番組は始まる。バレーとバリ舞踊は体の動かし方が全然違うから、当初は見るからにバリ舞踊とは何か雰囲気が違うのだが、流石にバレーで鍛えているから無理なポーズが簡単に取れるし下半身の安定感がやはり常人ではない。そんな中でも常に肩を上げ、肘を手よりも高く保つのはキツそうであった。
 更に、目の動きは難しいようであった。首藤自身が歌舞伎に例えていたが、成る程バリ舞踊の激しい目の動きは歌舞伎のそれに通じるところがある。今まで散々見慣れている筈なのに、歌舞伎との共通性は言われて初めて気付いた。もっともバリ舞踊の目の動きは、歌舞伎で言うなら常に見栄を切っているようで少しも休む間が無い。目玉が落ちるのではないかと心配になる程瞼を持ちあげて四白眼にしたり、瞬く間に黒目を左右一杯に動かしたり、とにかく常に激しく動かす。こういう動きは一長一石には難しいであろう。
 厳しい早朝トレーニングが続く。バリ舞踊では男は腰を動かしてはいけないそうである。腰を動かすと女の踊りになるので、男は手足だけを動かすのだと言う。初めはギコチなかった首藤も、あっと言う間にそれらしくなって来た。そして最後は、豪華な衣装を身に付けて、祭りの舞台に上がる事になる。インドネシアは地方によってそれぞれ衣裳が異なるが、バリの衣裳は中でも黄金を主体とする豪華な衣裳である。メーキャップをして冠を被り、絢爛豪華な衣裳を見に付けて、首藤は最後は立派に踊り切った。流石であった。11才と7才になる先生の息子達との三人の舞台であったのだが、何とも微笑ましくも、しっかり様になっていた。
 バリの踊りは生活に密着している。そして村の生活の一部として踊りとガムラン音楽が普通に、頻繁に催される。昨年のバリ行の本ブログに写真を載せた、それは立派な神へのお供えも日常である。バリの人々は常に神々への感謝、大地と海と自然への感謝の中で生きている。バリ舞踊もまたしかりである。首藤康之は、踊っている時に嘗てない心境を味わったと言っていた。観客を意識しない、感謝して生きているバリ人の心境に同化したらしい。
 蛇足ながら、バリにいるインドネシア人が全てバリ人とは限らないから、観光で行く人はやはり油断禁物を肝に銘じて欲しい。