baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 今日の雑感〜原発関連

 福島第一原発事故の早期安定化の切り札として期待されていた汚染水浄化設備が、本格稼働後僅か5時間で停止してしまった。問題は米国製のセシウム浄化設備にある。この装置は据え付け後にもテスト中に10ヶ所から水漏れが発見されて、立ち上がりが1日遅れるハプニングがあったばかりである。
 そもそも、米国製の機械や機器はおよそ信頼性が低いから、特に今回のような綱渡り的に時間に追われている時には米国製の採用は控えるべきなのだが、特殊な機器だから代替品が無かったのであろう。僕も現役時代に米国製の若干複雑な機械を売った事がある。この時は福島同様、立ち上がり後のトラブルが絶えず、結局引き渡しまでに1年を要してしまった。それらのトラブルは全て製造工程や部品品質の問題で、基本的な設計ミスではなかった。組み付け不良や部品の品質不良が頻発し、しかも問題が複合的に発生したので原因究明に時間が掛り、客先の不信感が増幅された事もあって結局1年間安定操業に到らなかったのである。苦い経験であった。
 恐らく今回も似たような問題だと想像される。しかし、今回は余り解決に時間が掛ると汚染水の貯蔵場所が満杯になり汚染水が溢れ出すと言う。また海洋汚染などになってはとんでもないから、今回ばかりは一刻も早く安定操業が始まる事を祈るばかりである。
 話は飛ぶが、日本の物作りが近い将来にこうならないか、若干危惧している。と言うのは今の日本が四半世紀前の米国の足跡を辿っているように見えてならないからである。今の日本を見ていると、物作りはどんどん海外へ移転して国内の空洞化には拍車が掛り、企業は目先の利益に汲々として長期的視野に立った投資を大幅に減らしている様に見えて仕方がない。経営者が自分の在任期間中に結果をだそうと焦るのは、正に四半世紀前の米国流経営法である。企業の経営者の給与が大幅にアップしたのも、企業の経営が米国化している証左のように見える。経営者の給与が大幅に増えれば、益々短期間の利益を追求するという悪循環に嵌る。
 更に日本式雇用形態、即ち終身雇用制が崩壊してしまった。米国ほど簡単にレイオフとは行かないが、今はちょっと業績が悪いと二言目にはリストラと相成る。そして、レイオフの代わりに派遣社員の受け入れを止める。だから従業員も、少しでも質の高い仕事をしようだとか、職場のTQCとか言って職場の効率を上げ、製品の品質を高める提言を出す、と言った様な企業に対する忠誠心も薄れつつある。もう四半世紀もすると、世界に誇った日本製品の品質も地に落ちるのではないかと心配になるのである。元が違うから、まさか米国製品ほど酷い事にはなるまいとは思うものの、余りにも米国の辿った道をなぞっている様に思えて不安になる。

 海江田経産相が、突然各地の原発の安全対策完了宣言を行い、早期運転再開に対する地元の理解を要請した。僕は読者諸氏は既に御承知のように、その是非はともかくも既に取り敢えず走り出してしまった原発であるから、福島で大事故が起きたからといって問答無用で全国の原発を全て即刻停止せよという意見には反対である。そんな事をしたら日本の経済に与えるマイナスインパクトが量り知れないからである。仮に全面廃止するにせよ、それなりの助走期間を置かないと日本の産業が大打撃を受けてしまい、国内の雇用も再起不能なところまで落ち込みかねないからである。
 しかし同時に、海江田万里の発言も舌足らずで、唐突の域を出ない。いや、それ以前に、そもそも原発を日本国内一律に論ずる事に無理があると思う。福島原発のように、古い原発は設計基準も相対的に甘いし、機器の老朽化も否定できない。また立地条件も、場所によりそれぞれ条件が異なり、同一に論じる事には無理がある。現に、現政権自身が浜岡原発だけを特別扱いにして、実質的な運転停止命令を出した先例があったばかりである。
 更に気をつけなければならないのが、今回の福島原発事故で国民の誰もが知る処となった、使用済み核燃料の問題である。核燃料は使いきった後も余熱が極めて大きく、運転を止めた後も冷却し続けないと、あっと言う間にメルトダウンしてしまう厄介者である。福島でも原子炉のみならず、使用済み核燃料の貯蔵プールが熱を持ち、必死の注水作業をした事は未だ記憶に新しい。そして今でも、原子炉の低温安定化には使用済み核燃料棒貯蔵プールの冷温安定化も必須要件である。
 更に放射性廃棄物が出す放射能の残留期間の問題もある。ヨウ素131の様に半減期が8日程度であれば、長期間にわたり神経を立てる事も無いが、プルトニウム239のように2万4000年も半減しない放射性物質が出来てくる。その廃棄問題に明確な説明がないままに、さらにはその危険なプルトニウム239を混入したMOX燃料を使用するプルサーマルも他の原発と一緒くたにされている。プルサーマルの唯一の稼働原子炉である玄海原発を擁する佐賀県知事が、運転再開に先立ってプルサーマルについての更なる説明を求めるのは当然である。しかもプルサーマル運転から出て来る核燃料廃棄物は500年も温度が下がらないと言うのだから、地下にも埋められずにずっとお守をしなければならないらしい。プルトニウムは核廃棄物として生成される物が大部分であるから、原発が続く限りは確かにエネルギー資源としては豊富と言えるが、非常に危険な放射性物質であり、一旦福島並みの事故が起これば遥かに扱いが難しい。従って、もっと掘り下げた国民的議論を行い国民の少なくとも過半が納得する結論が出るまでは、少なくともプルサーマル運転は待つべきではなかろうか。
 浜岡原発の実質停止命令は未だに熱い議論の的だが、今回の突然の原発安全対策完了宣言も負けず劣らずの舌足らずで唐突な感は否めない。菅政権の特徴である突然の重大発表は、世間を動揺させるには充分だが、納得させるには程遠い。夏の電力不足回避に向けて、準備の出来た原発から運転再開を急ぐのは分かるが、もう少し意を尽くして各原発ごとに、立地条件や機器の耐久性、災害対策や緊急時対策などについての肌理の細かい説明を施して、地域住民の少なくとも過半の納得は得て欲しいものである。例えば大地震の予測は、何も御前崎周辺だけに為されている筈はない。