baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 サンバル 〜 唐辛子ソース

 今日はジャカルタの丸の内にある、新興のスーパーに行った。最近売られ始めたと言う青唐辛子のソースを試してみたいのだが、僕は噂は聞けども未だにお目に掛かったことがない。ところが夕べ食事をした店のオーナーが、このスーパーで手に入ると教えてくれたので早速買いにいったものである。残念ながら今日はそのスーパーでも品切れで、今回も手に入りそうも無いが、何処で売っているか分かっただけでも収穫であった。
 そのスーパーが、度肝が抜かれるほど物凄いものであった。品揃えの豊富さ、売り場のとてつもない広さ、売っている物の質の高さ、そして品質なりの値段、どれをとっても僕が駐在していたころのインドネシアからは一皮も二皮も剥けている。運転手によれば、このスーパーが既にジャカルタ市内に3軒ほどあると言う。こんなスーパーがやって行けるほどインドネシア国内需要が延び、これ程高価な品物がそれなりに売れるようになったと言う事で、正にここ数年のインドネシアの経済発展を目の当たりにした思いである。少なくともジャカルタでは、中産階級が間違いなく増えているようである。他方で貧困層が未だ三割もいるので貧富の格差拡大は間違いなく社会問題なのだが、インドネシア人は基本的に大らかで中国人ほど金銭欲が強くないから、今の処中国ほどの社会問題にはなっていないようである。逆に、だからインドネシア経済は、一部の華僑に握られてしまっているとも言える。
 ところでいよいよ本題だが、そもそも唐辛子ソースは、インドネシアが世界に誇れる素晴らしい家庭調味料だと思う。サンバルと呼ぶ。従来は家庭の主婦が家で作るもので、家々で少しづつ味が違い、それが我が家の味になっていた。ところがそのソースが工業化されて、壜詰めになって売られるようになって久しい。最近は大手の食品メーカーが参入して競争が激しくなり、種類も爆発的に増えた。青唐辛子のサンバルも、その一つである。
 サンバルがどう素晴らしいかと言えば、サンバルは食べ物のオリジナルな味を絶対に損なう事無く辛味だけを増す。山葵、西洋芥子、七味唐辛子、タバスコ、ラー油などは風味が強くてオリジナルな味がどうしても影響されてしまう。一味唐辛子は比較的他の味を邪魔しないかも知れないが、それでも独特の風味は隠しきれないし、普通に売られているものは辛味がまるで足りない上に、サンバルほどは他の食材に馴染まない。しかしインドネシアのサンバルは、本来の食材の味をそこなわいと言われており、実際僕もそう思う。勿論最近は色々な種類が出回っているので、全てがそうだとは言い切れないが、少なくとも単なる辛味ソースについては単に辛味を増すだけである。
 このソースに一度はまってしまうと、もう手放せなくなる。この頃は辛さのグレードにも幾種類かあるのだが、エクストラ・ホットという一番辛いのが僕の好みである。一番辛いソースを好みに応じて適量入れれば、自分で辛さが調節できる。しかし相当辛いから、好き嫌いは人による。辛いものが好きだと言う友人にプレゼントする時には、随分と辛いから少しずつ入れて様子を見るように注意するのだが、後から文句を言って来る不埒な友人もいる。
 唐辛子の辛さは、直ぐには効かずに10秒位経ってから突然襲ってくる。文句を言って来る連中は、最初に馬鹿にして入れ過ぎたものであろう。ところが一旦辛味を感じ出すと、適量なら美味しさが増すだけなのだが、辛過ぎると口の中が火事になったようでもう何時まで経っても鎮火しない。頭の天辺から顔中汗だらけになり、こうなってしまうと水を飲もうがご飯を食べようが何の救いにもならない。地元の人は熱いお湯を飲むと良いと言うが、そんな物は飲めたものではない。友人の家族の中には聞いただけで怖気づいて、手を出さない人もいるらしい。
 だが辛い物好きで、特に印度亜大陸や東南アジアに住んだことのある人には極めて好評で、この頃はリピートの注文が後を絶たない。何に入れても邪魔をしないから、ラーメン、炒飯、焼きソバ、ピッツァ、パスタの類から、フレンチフライ、ハンバーグ、シチュー、等々、使い出したら限がないのであっという間に空になるという寸法である。ケチャップやマヨネーズに混ぜても良い。
 そのサンバルが、今日のスーパーには大きな棚一面に並んでいた。一本一本を手にとって見た訳ではないが、見るからに種類もメーカーも更に増えているようである。隠し味が色々入っているので、家庭で作るのが面倒になってきたのと、段々と核家族化し、更に共稼ぎが増えてきたことから既製品の需要が増大しているものであろう。また、自家製は長保ちしないのも、賞味期限が半年ほどもある既製品が好まれ始めた理由だと思う。何れにしてもサンバルは、インドネシアが世界に誇れる生活文化である。