baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 草の根のトトロ外交

 先日の蓼科でのサロン・コンサートの打ち上げパーティーで、実は酔った勢いで在日オランダ大使にトトロのシュークリームを届ける約束をしていた。オランダ大使は、八分の一日本人の血が流れているそうで、ご当人は長崎の出島がどうのとか説明をしておられた日本通である。日本語がどの位堪能かは聞く機会がなかったけれど、日本語は漢字も読めるとのことであった。そんな大使だから、日本のアニメにも通じていて、本当か外交辞令か知れないが、宮崎アニメの大ファンだと言う話まで出た。
 その場に居合わせた人が、前の日に僕が差し入れたトトロのシュークリームを食べていたので、そんな話が話題になってしまった。その話に大使が酷く興味を示したので、知らぬ顔も出来ずに成り行き上、後日お届けするという話になった。都内なら冷蔵宅急便で送れば良いという甘い考えもあった。ところが東京に戻って相談したら、クリームが生物だから配送は受け付けないと言う。仕方がないから自分で買って届けざるを得なくなった。
 車で都内をウロウロするのは厭だから、バイクで行くしかない。でもバイクで大使館に乗り着けたら多分相手にして貰えないだろうと、昨日前もって大使秘書に電話を入れて事情を説明して、「汚ない格好でお届けするので、門を通して欲しい」と連絡しておいた。
 約束通りお昼少し前に大使館に着いた。勿論今迄行った事はない。門衛に訪うと、ちゃんと連絡が行っていてバイクのナンバーを見て門を開けてくれた。そのままバイクで入っても良いと言う。中に入ってみると、これが奥行きがあって広大な敷地である事が分かる。東京のど真ん中なのに、鬱蒼と生い茂る木立を縫って走る車寄せは、門から執務棟まで道なりで100mぐらいもありそうだ。
 前日言われた通りに受付に行って、大使秘書を呼び出した。受付の、少し日本語の怪しい女性も、僕の人品骨柄を見て胡散臭そうな顔をする。そんなに着ている物で人を判断するものではないと言いたくなるが、よくよく考えればこんな恰好で大使館の受付まで入り込む輩は滅多におるまい。それでも秘書に電話をしてくれて、ロビーの椅子に掛けて待てと言われた。
 5分も待っていたろうか、ロビーの鉄扉がガチャンと音をたてて開いたので顔を上げたら、何と大使ご本人のお出ましである。これには吃驚した。相手は上下のスーツにネクタイ姿、こちらは汚ないジーパンに半袖シャツである。それでも大使は多分僕の顔は覚えていたようで、早速持参のシュークリームを差し出すと大変な感激ぶりであった。外交官という人あしらいが商売の人種だから、頭から信用してはいけないが、この大使は悪い人ではなさそうである。と言うか、酔っていたとは言え、親近感を持ったから変な約束をしたものである。ロビーで10分も立ち話をしていただろうか。愉快で気さくで饒舌な大使である。
 オランダと言えばインドネシア宗主国である。インドネシアに永く住んでいると、色々とオランダ時代の昔話が聞えて来て、植民地時代の残虐な話が多いのに、どういう訳か親近感も出て来るものである。そんな背景もあって束の間ではあったが、オランダ大使との再びの会話を楽しんだ。草の根のトトロ外交であった。帰り際にバイクから門衛に挨拶をしたら、ロビーの情景を監視カメラで見ていたものか、今度は酷く愛想が良かった。