baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 大王製紙前会長逮捕

 大王製紙の前会長、井川意高が特別背任容疑で逮捕された。大王製紙の子会社から総額107億円を借り入れと言う名目で無担保、恐らくは無利子で、鶴の一声で引き出しカジノに注ぎ込んでいたと言う。週刊誌の見出し広告には、嘘か誠か女性が絡んでいたというものもあった。この前会長が創業者一族だった事から、異常な借り入れが発覚してから大王製紙による告発までに随分時間が掛ったし、最終的に告発した容疑の借り入れ金額は107億円ではなく32億円に減額されている。その差額は既に返済されているとか何とかで減額されたのだろうが、背任という容疑から言えば返済があろうがなかろうが恣意で巨額の資金を引き出した事実からは本来なら107億円全額が対象となるべきであろう。
 この事件自体は何れは何らかの形で残額の32億円も一族の資産から返済されるであろうから、井川意高個人に対する刑罰はともかくとして、事件の結末としては世間を騒がせ株式市場で大王製紙株が暴落して上場来安値を付けた程度で、何れは大きな社会的影響もなく終息してしまうのであろう。しかし、個人で100億円もの金をカジノに注ぎ込む神経は、やはり僕達のような普通の人間には到底理解できない。日本にもこんな大金持ちの家に育ち、お金の価値が分からぬままに大人になってしまった人間がいたのかと、そちらの方が驚きである。普通のサラリーマンなら1億円どころか数千万円の借金をするのも一生の一大事で、そうそう簡単に借りられるものではない。いくら井川意高が大金持ちのバカボンであったにせよ、世の中には桁違いの金持ちがいたものである。
 その昔、フィリピンの取引先のオーナー華僑が或る日、会社の金を7000万ドル持って雲隠れしてしまった事がある。当時の7000万ドルは日本円では140億円以上の額になる。突然の事だったので訳が分からず、僕の会社も相当な額の債権が残っていたので大騒ぎになった。その後の調査で、そのオーナーはラスヴェガスで大負けして借金が嵩み、その借金相当額を会社から引き出して雲隠れした事が分かった。どうやってそんな現金を工面したのかは知らないが、少なくともその会社はフィリピンでは揺るぎもしない優良会社だったのである。にも拘わらず、社長が突然不在となり金を持ち逃げされ、その会社はあっと言う間に倒産した。そして、その華僑は数年後にハイチに潜伏しているところが見付かり、殺されてしまった。カジノが見せしめに、米国のマフィアを使って不良債務者を始末したという噂であった。
 僕がインドネシア駐在中の取引先には、華僑が多かった。そして華僑には博打好きが多かった。インドネシアでは博打は禁止されているので、博打に手を出さない人は絶対に近付かない反面、博打が好きな人は定期的に国外に出てカジノに通っていた。インドネシアの華僑系企業のオーナーは大王製紙以上にまだ会社を殆ど私物化しているケースが大部分で、それこそ会社の金も自分の金も区別がない。それだけに、僕達も大きな仕事をする時にはその辺りの事は殊の外慎重に調査した。その結果、僕達が付きあう華僑はそれぞれ自分を律する基準がしっかりしていた。ある人は、雰囲気が好きで定期的に韓国やマカオのカジノへ行っていたが、一度に使う金は数万ドルと決めていた。だから数万ドル、精々10万ドル以内で最低でも3日は遊べるように、賭け金もそれなりに大張りはしなかった。また、ある人は豪領クリスマス島のカジノの上客で、ジャカルタからの飛行機代も現地のホテル代も飲み食いを含めて全てカジノ持ちであったが、彼は30万ドル負けたら即座に帰国する事を絶対に曲げなかった。彼曰くは「自分の場合は、30万ドルまでは負けても笑って済ませられる。しかし、30万ドル以上負けてしまうと熱くなって理性を失うから、30万ドル負けたらその時は絶対にそれ以上は遊ばないのだ」と言っていた。また、「カジノ通いはあくまでも自分のプライヴェートであるから、会社とは全くの無関係である」とも言っていた。30万ドルまでは笑って済ませるというのも凄いが、その人達には死ぬまで、博打絡みの悪い噂は一切立たなかった。何れも金持ちと言う意味では普通の日本人とは桁違いの大金持ちだが、井川意高とは異なり己を厳しく律する術を心得ていたと言える。
 麻雀でもパチンコでも、庶民の遊びと言いながらも負けが混んで禁治産者になる人は多い。ずるずると深みに嵌るのが、博打の恐いところである。僕は全く博才がないので、遊び麻雀や、それこそ小額チップのルーレットぐらいしかやらないが、ゴルフでも麻雀でも大きな賭け金に慣れてしまうと中々元には戻れない。一度大きな賭けに慣れてしまうと、もう小さな金額では刺激にならずに面白くなくなってしまう。増してや一度大儲けをすると夢よもう一度、一度大負けをすれば何とかして取り返そうと、どんどん深みに嵌って行く。その結果、会社にいられなくなって、知らぬ間にひっそりと消えて行く男を何人見た事か。