baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 「経済大国インドネシア」(中公新書)を読んで

 佐藤百合著の中公新書、「経済大国インドネシア」を読んだ。佐藤は本職はアジア経済研究所の職員だが、今や押しも押されもせぬインドネシアの権威である。以前から顔見知りで、僕が駐在していた頃には時々食事をしながらその高説を拝していた。複雑に絡み合ったややこしい処はバサリと切り捨てて、時には独断と思える程明快に物事を説明するのが彼女の特徴である。この本も期待に違わず、実に明快にインドネシアの本質を抉り、現状を見事に描き出している。2年前にジャカルタ在住の日本人ビジネスマンに、インドネシアの「今」が分かる本があったら嬉しいと言われたのがきっかけになって書いたのがこの本だそうである。初版が昨年の12月20日なのに、今年の1月30日にはもう再版されている。初版に何部刷ったか知らないが、結構な売れ行きなのであろう。1997年のアジア通貨危機以降ずっと沈滞していたが、この3〜4年急速に浮上して来た最近のインドネシアに対する日本人の評価が、僕には不当に低く感じられていたので是非この本を多くの人に読んで貰いたいと思う。
 僕はジャカルタを離れてほぼ10年経つ。その間もしばしばインドネシアに出張しているから、縁が切れている訳ではない。しかし駐在していた時に比べれば、情報量が圧倒的に減っている。と言うよりも、普段日本に居る今は殆ど情報が入って来ないと言った方が正確である。精々出張した時に目に入る新聞とテレビの断片的な情報しか持ち合わせていない。だから、何となく大きな流れは分かっていても、実は本当の処は何も知らないに等しいのである。駐在時代には面であった僕のインドネシアとの関わりが、今では線どころか飛び飛びの点に過ぎない訳である。そんな僕がこの本を読んで、漠然と感じていた事が明快に解説されていて溜飲の下がる思いであった。時には僕とかなり意見を異にする表現もあるのだが、それも佐藤女史の思い切りの良さなのである。また登場人物個人に関わるスキャンダルは全て割愛されている。実はそのスキャンダルと併せて見ると、個々の人物像がまた違って見えて来る面もある。しかしそう言ったスキャンダルは政治的に仕込まれたものも多く、且つまたインドネシアの伝統文化でもあるから、インドネシアの素人には誤解を招く事はあっても中々本質を理解するのは難しい。そう思えば、限られた紙面からはスキャンダルを一切割愛した彼女が正しいのであろう。そんなこんなを含めて、インドネシア通を自負する僕には大いに勉強になる一冊であった。
 それにしてもインドネシア側のプレーヤーは、政治家も実業家も、出て来る名前がどれも見慣れ聞き慣れた名前ばかりである。そしてそれらの人物の殆どと、遠近の差はあれ、目的も様々だが、以前に面談している。辣腕の女性元財務大臣には、中々の美貌の見掛けとは裏腹に手酷く遣り込められた。インドネシアを代表する華僑財閥の二代目総帥とは、シンガポールで、東京で、親しく時間を共にした。10年経った今も、相変わらず彼等が牛耳っているのかと、ふと微笑ましくなった。