baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 好調な車やバイク販売の陰で

 インドネシアでは車やバイクの販売が好調で、昨年の売り上げ台数は中国を別としてアジア新興国一であった。しかし、その裏には10年前には考えられなかった市民の変化があったようである。
 元々インドネシアの人が車やバイクを買うときは月賦で買うのが通常である。10年前は今ほど中産階級が伸びていなかったから車は未だ高嶺の花で、通勤や生活の足としてバイクを買うのが庶民の間では主流であった。そして元々呑気だから金利率などは一切気にせず、毎月の支払額が給料と比べて払える金額かどうかだけで借金をしていた。だからアドオンで27%などというとんでもない金利でも平気で借りていた。そして万が一何かの理由で返済できなくなると、未だ日本の江戸時代の5人組制度が残っているインドネシアでは庶民は借金の踏み倒しなどは思いもよらず、親戚や一族郎党から借金をしてでも支払いを続けたし、一族郎党も身内から延滞債務者を出すのは恥だから一致して援助をするのが普通であった。だから月賦の引っ掛かりは1%未満で、悪徳華僑が端から借金を踏み倒すのが一般的であった1998年の通貨危機以降も市民向けファイナンスは安全で儲かっていた。
 ところが最近はこの延滞債務者が急増しているらしい。しかも悪質な事に、延滞する前に担保になっている車やバイクを売り払ってしまうケースが多々あると言う。中には回教正月に実家に帰る為だけに5%の頭金でバイクを購入して家族4−5人の交通費を浮かせ、ついでに田舎に錦を飾った挙げ句に、休暇明けに直ぐにバイクを売り払って借金を踏み倒そうとする不届き者も続出したらしい。政府は斯かる傾向を憂慮して、月賦販売の最低頭金をこの6月から現行の5%から25%へ引き上げる決定をしたと言うニュースが今日の朝刊一面に出ている。少なくとも25%の頭金が払えない人間は、贅沢品は買うべからずと言う事である。インドネシアの人には余り計画性がないから、頭金が余り安いのは確かに問題である。
 インドネシアの人に計画性が乏しいと書くと、馬鹿にしているように聞こえるかも知れないが、これは土地柄のせいであって決して馬鹿にしている訳ではない。計画性と言うのは、元々は食べ物がなくなる厳しい季節を生きながらえる為に食料を備蓄する習慣であると思う。そんな習慣が何万年も続く間に培われたDNAであると僕は信じて疑わない。通貨が庶民の間で流通し始めるのは精々が数百年の歴史であろうから、貯食の歴史に比べればものの数ではない、やはり食料の備蓄の習慣が計画性に繋がるのである。
 ところがインドネシアのような熱帯の地では、食べ物がなくなる季節はなく、一年中が常夏で食べ物の採取には事欠かない。そして中途半端に貯食しようとしても翌日には腐って食べられなくなるから、食べ物を残す事は捨てることであって貯食にはならない。だから食べ物が有る時には食べられるだけ食べ、運悪く食べ物が手に入らないときは我慢するしかない。しかし普通は餓死するほど食べ物が手に入らない環境ではないから、それほど深刻になる必要もない。華僑が流入してくるまでのこの地域の住民は、極めて呑気に日々人生を謳歌していて、先のことは悩んでも仕方がなかったのである。
 そんなDNAを受け継いでいるから、手元にお金が入れば欲するままに使ってしまうし、お金が底を付けば我慢するのである。自分の昼飯代を仲間に貸してしまい、自分が昼飯を食べる段になったらお金がなくて我慢するしかなかった、と言う以前書いた運転手の笑い話もこういう背景から生まれた実話である。しかし下層の市民は、いよいよひもじくなると先の事も考えずに悪さに走り結局は人生を棒に振る。だから月賦販売もある程度のインテリまでにしておかないと、これからは罪作りになる。そういう意味では頭金の引き上げは、例え一時的に車やバイクの販売が頭打ちになっても、特に購買層が中産階級の下から下のバイク販売には、大変良いことだと思う。