baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 インドネシアの床屋

 昨晩はブログを書くつもりでうたた寝してしまい、時差もあって気が付いたらブログの日付が変わってしまっていた。不覚であった。それで昨日書こうとおもっていたネタを今からご披露する。
 仕事の約束もないのに飛行機の都合で一日早く来てしまったので、昨日は手持ちぶさただった。体調が芳しくないからゆっくり出来てそれは良かったのだが、やはり一日ホテルに閉じこもっているのも退屈する。と言う訳で、前回来た時に偶然車窓から見つけた美容院で髪を切ることにした。街の床屋で髪を切るのは駐在時代は当たり前の事だったが、出張で来るようになってからは昔馴染みの店が消えてしまったこともあり、久しくやった事がない。
 その美容院はホテルからタクシーで行く距離ではないので、久しぶりにジャカルタの裏道を歩いた。最近は余り歩き慣れていない事もあるが、相変わらず余り気味の良いものではなかった。歩道の両側に食べ物屋の屋台が店を出していて、店の間は人一人通るのがやっとの幅である。その両側には屋台のあんちゃんやら訳の分からない若者が並んでいて、中には相当凶悪そうな人相の人間もいる。集団で襲われてしまえばひとたまりもないそんな場所を、何処から見ても外国人で小銭を持っていそうな爺様が一人で歩くのだから、流石に心穏やかと言う訳には行かない。少し緊張して歩いていた。特に帰りは暗くなっていたから、不気味さも一入であった。
 美容院に着いて中に入ると、美容院だから仕方がないようなものの客は全て女性、それも全員中国系インドネシア人である。これは異様な雰囲気なのである。一瞬ちょっとたじろいだ。普通は中国系とマレー系が適当に混じっていて、雰囲気もそれなりに柔らかいものなのだが、この店のオーナーは中国人らしい。それでも中に入ってしまったから僕の髪を切って貰えるか訊いたら、受付の中国人女性が何を勘違いしたのだか、今日は男の理髪師が入っていないからダメだと言う。僕が、別に男じゃなくても良いのだけれど、と言ったら途端に愛想が良くなって、それなら出来ますとの事。
 実際、回教国には所謂オカマが多い。特に理髪師やマッサージ師のように、直接体に接する職業の男にはオカマが多いのは周知の事実である。インドネシアも例外ではなく、ジャカルタには夜になると何百人というオカマが立ちんぼをする有名な道もあれば、北の海岸沿いでは今でも、5kmぐらいのところに毎晩何千人というオカマが客引きをする。心と見掛けはともかく、彼らは体は男だから、凶暴になれば随分と危険な存在である。そんな連中と、公認ではないにせよ日常的に身近に接しているお国柄だから、突然夕方に闖入してきた一見の中国人みたいな客をオカマ目当てと思ったのかも知れない。
 と言うのは後から考えた事で、その時は冒頭の会話が何だったのかは皆目分からなかった。とにかくそれからは極く普通に髪を切ってもらってクレムバットをやって貰った。さて、代金を払う段になったらどっちがどっちだか分からないのだが、350円と450円、締めて800円であった。理髪師とマッサージ師にそれぞれ200円チップをやって、1200円で整髪とクレムバットが出来てしまった。これをホテルの床屋でやると4000円ぐらいの事になる、インドネシアは実質インフレが酷いと言いながらもまだまだ人件費は極め付けに安い。出来上がりはお世辞にも褒めたものではないが、僕の髪の毛はこの程度で十分なのである。ただ、次に日本で行きつけの床屋に行ったら、下手くそに触らせたと怒られそうではある。