baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 友人とスクーター

 小沢一郎民主党を分裂しそうな雲行きになってきた。民主党が政権を取って直に小沢一郎は遠からず離党すると確信し、そんな事もブログに一度ならず書いたが、政治資金規正法違反が足枷となって流石の小沢も党の分断には踏み切れなかったようである。それが未だ一審とは言え無罪判決が出て吹っ切れたのであろう、今の政局をチャンスとばかりに離党する構えの様である。その小沢が国民に対する正義などと言うから片腹痛い。小沢が正義を言うなら、一審で秘書が有罪になった責任を取って議員辞職するのがもっとも正義ではないのかと言いたい。一方で小沢の取り巻きは、ニュースで見る限りでは「民主党が壊滅する」だとか「自分たちの議員の身分が無くなる」だとか、言っている事は自分の周りの事ばかりで国の「く」の字も出てこない。しかし今度ばかりは百戦錬磨の小沢と雖もそうそう思惑通りには行くまい。取り巻きと雖も、既に可也の民心が小沢から離れている事が分からぬ程の馬鹿ばかりではあるまい。大震災で壊滅的な被害を受けた地元にも何と年末まで帰らなかったそうだから、幾ら渡すべき物は渡っていたとしても民心がそう何時までも付いているとは思えない。
 昨年の7月に突然消化管間質性腫瘍(GIST)が見つかって切除し、8月に友人一同が集まって快気祝いをした友人の話を記憶されている読者もおられよう。彼はその後も抗癌剤を服用しながら頑張っているが、抗癌剤の副作用で手足が酷く痛む事があるらしい。手足の皮が剥け、酷い時にはマメが潰れた時のような痛みで歩くのも困難な事があると言う。そういう時は傍から見ていると、歩くと言うよりはゆっくり飛び跳ねるように歩を進めるので痛々しい。そんな友人が、出歩くのが不便なのでスクーターを買おうと思っているのだがと言うので、「そりゃ良い考えだ、元気なうちに乗っとけ、乗っとけ、スクーターなら少し位足が痛くても乗れるし、また行動半径が広がるよ」と焚き付けておいた。その彼が先週、僕がジャカルタに行っている間に入院していた。
 腹水がパンパンに溜まってお腹がコチコチになり、胃まで圧迫して、流石に気丈な彼も少し辛かったようで自分で病院に行ったと言う。帰って来て直ぐに「元気?」とメールしたら「元気。だけど今は検査入院してる」との返事が来た。それなら定めし退屈しているだろうと病院を覗きに行ったら、例のスクーターはもう注文したとお得意である。その彼も入院中に腹水を少し抜いてもらい、検査をして、10日程で退院出来たので迎えに行った。帰りの車の中での会話である。
 「腹水ってどうして溜まるんだ?」
 「癌細胞から出るらしいよ。僕は腹膜に癌が転移しているから、それで腹水が溜まるらしい」
 「へぇ、そうなんだ。だけど、どうしてそんな事を他人事みたいに話せるんだい?」
 「そうしてないと、落ち込んじゃうから」
 普通は落ち込んじゃってそんな話はしないと思うのだけれど、そんな話題を振る僕も無神経なのであろう。肺にも少し水が溜まっていて、時々息が苦しいらしく咳をする。そんな事も、酸素が足りなくなるとこうなる、と自分で解説してくれる。
 そのスクーターを今日一緒に取りに行った。店の場所が公共交通機関で行くには不便な事もあるが、僕が早く彼のスクーターを見たかったのである。何ともこじんまりと可愛いらしい、110ccの真っ赤なスクーターである。昔はバイクにも乗っていた男だからそれ程心配はしていなかったが、それでも何十年ぶりかの二輪車だから初めは少しフラ付いていた。しかし直ぐに慣れて、新品のヘルメットを光らせながら結構しっかりと僕の車に付いてきた。後から聞いたら無我夢中で僕の車も眼に入っていなかったらしいが、バックミラーで見る限りは余裕で乗っている様に見えた。闘病中の友人が如何にも嬉しそうであった。おっと、病人扱いをすると怒られるのであった。この週末には浅草まで「どぜう」を食べに行くそうである。何とも前向きで気丈な癌患者である。今頃このブログを読んで苦笑しているかも知れない。