baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 バングラデシュへセンチメンタル・ジャーニー(IV)

 今朝ダッカへ無事に戻って来たので、改めて昨日の事を記そう。
 昨日はホテルに荷物を置いたまま、軽装で早朝に空港へ向かった。空港に行く途中でこんなリキシャに出会った。昔はなかったリキシャなので、迷わず写真を撮った。聞けば学生専用のリキシャなのだそうである。学生と言っても高校生位になれば体格は大人と変わらないから10人も乗せたら随分重いと思うのだが、しっかりと走っていた。幾ら貧しいとはいえ随分な肉体労働である。

 土曜日の夜は飛行場からホテルまで1時間程も掛かったので、朝は少し早めにホテルを発った。ホテルのボーイはもっとゆっくりでも間に合うと言っていたが、飛行機に乗り遅れたからとて責任を取って呉れる筈も無いから安全を見た。ところが実際には12分程で着いてしまった。そんな距離に1時間も掛かるのだから、如何に渋滞が酷いかが想像出来ようというものである。それで大分飛行場で待つことになったが、予定通り搭乗案内があった。搭乗口へ行ってみると、飛行機は小さな双発のプロペラ機である。機首が少し大きいが、35年前にチッタゴンへ通った時に使っていたフレンドシップF-7によく似た機体である。実際には、乗ってから分かったのだが、機材はDash-8-100というボンバルディアの、写真のように小さな飛行機であった。内部も昔懐かしいフレンドシップそっくりに出来ていた。

 フレンドシップは木の葉の様に揺れる飛行機で、チッタゴン往復では随分怖い目にあっているので、内心少々怖じ気づいていた。特に北半球のバングラデシュでは今は雨期に当たり、雲が多く飛行機に乗るには良い季節とは言えないのである。しかし乗ってみればそう揺れる事も無く、と言ってももちろん39人乗りの小型機だから大型機と違って飲み物がこぼれる程度には揺れるが、無事にジェソールに到着した。揺れる飛行機も、民族衣装をデザインした制服がよく似合うCAが乗り合わせてくれればあっという間の飛行である。実際に25分ぐらいの飛行なのだが、ここをバスで走ると途中に大きな河が流れていて、10時間以上は覚悟する必要があると言う。インフラ整備の遅れているバングラデシュの実態が想像できよう。

 ジェソールには、クルナのホテルに頼んでおいた車が迎えに来てくれている。早速車に乗ってクルナに向かったのだが、この道中が凄まじい。道は一応舗装されてはいるがデコボコで、センターラインもろくに引いていない片側一車線ギリギリの狭い道を、自転車とオートバイと大型リヤカーを付けたトラクターや大きな荷台を付けた三輪オートバイ、バス、トラック、それと乗用車が混在して対面通行で走る。勿論歩行者もいる。クラクションのけたたましさはダッカの比ではなく、ジェソールからクルナまで1時間50分程の間中、途切れることなくクラクションの音を聞いていて頭が痛くなった。
 そしてこの道の交通がまた凄まじい。僕は発展途上国はあちらこちらを歩いていて、大概の無秩序な交通状態にはかなり免疫があるのだが、このジェソール−クルナの道中は僕の免疫では対処仕切れない強烈さなのである。左側通行のバングラデシュで、正面からバスが右側通行で突っ込んでくる。僕の車の運転手はスピードを緩めることなく、双方でクラクションを鳴らし合って今にも正面衝突しそうな勢いで接近する。最後はお互いにギリギリで見切るから結局は何事もないのだが、まるでチキンレースに付き合わされている様な心持ちで、生きた心地がしない事一度ならずである。相手が歩行者だろうが自転車だろうが、クラクションを鳴らし続けて10cmぐらいの間隔で躱して行く。こんな運転にずっと付き合っていたらクルナに付く前に疲労困憊してしまうので、なるべく前を見ないようにしていた。スピードは60−70km程度なので、整備された道なら決して特別速い訳ではないが、こんな混沌とした道では異常に速く感じられる。こんな怖い思いをしたのは、無錫へ下る山をエンジンを止めて、惰性とフットブレーキだけで下りた時以来である。それでも無事にクルナに着き、旅行本にクルナで一番と書いてあったホテルにチェックインした。
 クルナはバングラデシュ第三の都市だそうであるが、小さな町である。ホテルから見た景色でも、特段目に付くものもないのだが、マスジッドだけは沢山ある。

 目の下にある小さな建物にはアジアン・ユニバーシティと書いてある。随分小ぶりな大学もあるものと感心した。

 ホテルに着いた時はもう昼前だったので午後の車だけ手配して、朝も食べていないから取り敢えず腹拵えする事にした。近くにそそられるようなレストランも見当たらないので、迷わずホテルのレストランへ下りた。席に着くと、テーブルクロスに食べこぼしのカレーのシミが残っている。明らかに使い回している。少し嫌な予感がしたが、別に珍しい話でもないと気を取り直した。注文は、カレーは夜の食事にとっておいて、スープ、焼きそば、チャプチャイと白飯を頼んだ。昔のダッカの経験では、この手の料理はそれ程外れがないからである。
 予想通り、スープはまあまあであった。しかし焼きそばが出てきて後悔した。先ず、そばはビーフンなのだが、ビーフンに唐揚げ粉のような奇妙な粉が振ってあって、何とも奇天烈な味がする。トッピングも何だかよく分からない。とても口に出来る代物ではないので、白飯にチャプチャイをかけてぶっかけ飯にした物に箸を移した。チャプチャイも想像していた物とは似ても似つかぬ、ただ冬瓜を炒めただけのような面持ちなのだが、一口食べたら飲み込めなくなった。涙が出てきた。必死の克己心で何とか最初の一口を飲み込み、後は止めにした。お茶を貰った。紅茶だけは、極め付けに美味しかった。バングラデシュの紅茶は何処で飲んでも外れがない。
 ジェソールに到着してから、どうもパッとしない事が続く。歳のせいで順応力に衰えがあるのかも知れないが、それにしても少し極端である。この先も何が起こるか分からないので、時間を無駄にせずに目的地のバゲルハットに向かう事にした。