baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 今年も断食の季節

 今年も断食の季節がやってきた。正式には今夜、月を見て最終的なスケジュールが決まるのだが、実ははとっくに明日の金曜日からと決まっている。そして今年の回教正月は8月19日である。日本のこの時期は、年間でも一番暑くて日が長い季節なので、日本で断食をする人には最も厳しいシーズンである。イスラム暦は陰暦で、年々10日ぐらいづつ暦が早まるから、30数年ごとにこんな季節にも断食の季節が巡って来る。もっともイスラム発祥のアラビアでは、夏でも冬でも日中は暑いのであろう。そう思えば日本の夏も大した事はないのかも知れない。
 以前、国際人である高名な人のブログに、断食について全く認識が異なる記事が載っていた事がある。僕は即座に、僕のブログ記事を紹介したらご丁寧にも直ぐにお礼の返事があった事がある。こと程左様に、日本ではイスラムについての認識が一般化されていない。イスラムの断食は、この一年間の間に自らの精神と肉体に沈殿した澱を清めると同時に、貧しい者への気持ちを新たに、日頃当たり前の様に水や食べ物を口にする事の有難味を改めて思い知る、神がムスリムに与えた試練である。この試練を享受し全うする事が、敬虔なムスリムにとっては最も重要な、そして待ち望んでいた事らしい。ムスリムは今日の日没後に寺院で礼拝をし、夜食を摂ると明日からの断食に突入する。
 日本では明日は朝の3時前に起きて朝食を摂って4時35分までに礼拝を終わらせたら、夜の7時1分まで一切の物は口に出来ない。タバコも厳禁、日中は常に身を清く保ち、喧嘩をしたり嘘を付いたり汚い言葉を口にしたり、とにかく悪い事は一切してはならない。卑猥な事は、想像すらしてはいけない。だから、ムスリムにとってはある意味ではもっとも清らかで正しく生活する1ヶ月である。そして7時1分になったら飲み物を少し飲み、スナックを口にして直ぐに礼拝をする。急に沢山飲んだり食べたりしてはいけないそうである。別に神がそう決めた訳ではなく、身体に良くないのだそうだ。この時の水の美味しさは、経験した者で無ければ分からない程だと聞いた。それはそうであろう、想像に難くない。
 そんな敬虔な一月が世界中で明日から始まる訳だが、現実には、例えばインドネシアでは、これからの1ヶ月は警官はアルバイト(違反の摘発で罰金を取り上げてポケットに入れる)に精が出、役人は何かにつけて寄付を言ってくる。目的は断食明けの回教正月に向けての準備である。警官は、子供達には晴れ着を着せたいし、正月にはそれなりのおせち料理を誂えたいのである。役人も同様である。しかも職場によっては時々断食明けを職場の仲間と一緒に過ごすので、その時の飲み物やスナックを準備したいのである。勿論、こういう行為はアラーの教えには背くのだが、背に腹は代えられない。他方、この時期にはたかられる側のインドネシア中国人は頻繁に行方不明になる。イスラムではないバリ島などは、超人気の逃げ場となる。うっかりジャカルタでウロウロしていると抜き差しならなくなるのである。
 日本ではそんな機会はないが、この時期にもし断食している人と日中に会う事があれば、やはりこちらも面談中だけは断食に付き合う方が良いと僕は思っている。相手はそんな事は毛頭期待していないが、目の前でさも上手そうに飲み食いされれば生身であれば妄想も沸こうから、それだけ思い遣られて厭な筈は無い。これも異文化に対する心配りだと思っている。