baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 銭湯

 今日も東京は寒かった。少し厳寒が和らいだと言っているが、陽が射しても空気は冷たく、未だ雪はそこら中に残っているし、毎日本当に寒い。一度バイクの初乗りをしたいとずっと思っているのだが、こう毎日寒いととても出掛ける勇気が出ない。街乗りはもう何度もしているけれど、早く一度遠出をしないと新年の乗り初めといった気分にはならない。ところが、歳のせいなのか、寒さのせいなのか、未だに何処かへ出る気力が湧かない。
 ダッカ時代からの老朋友が、銭湯にはまっている。毎日の様に銭湯通いをしていると言う。以前からずっと、一度行ってみろ、あんなに気持ちの良い事はないと言われ続けていた。しかし何とはなく面倒で今まで一度も行っていなかったのだが、突然今日行く気になった。余りの寒さに、広々とした風呂に入りたくなった。温泉やゴルフ場の風呂には時々入るけれど、銭湯はもう半世紀以上行った事がない。行く時の準備は昔と変わっていないと老朋友に聞いていたから、タオルと着替えを持って、行きがけに銭湯用のシャンプーとボディソープを買い、郊外電車の一駅隣まで自転車で出掛けた。
 僕の子供の頃は、我が家に薪焚きの風呂はあったのだが、檜の浴槽は水漏れするし、風呂釜から出ている煙突からは煙が漏れ出し、風呂釜にも水が漏れる有様であった。戦前の浴槽と風呂釜に、アスベストの煙突だったのである。それでも浴槽の漏れる場所にボロを詰め、煙突には布を巻きつけて煙が出ない様にし、風呂釜の水漏れには目をつぶって一時は内風呂を沸かしていた。しかし薪の準備も大変だし、何と言っても湯の減りが早いので結局は銭湯通いが続いた。それが子供の僕には、楽しい楽しい銭湯通いであった。
 それから半世紀以上経って、改めて銭湯に行ってみた訳である。脱衣場と番台は昔と変わらない。番台には昔と同様、老婦人が座っている。ただ、昔の脱衣場には籐の籠があるだけで、そこに衣服を入れて棚に置くのであったが、今はコインロッカー形式になっている。財布や携帯は安全だが、呑気だった昔が懐かしい。そしてそこには貫目の秤が置いてあったものだが、今日の風呂屋には体重秤は見当たらなかった。洗い場には、女風呂との仕切りから端の壁までの間に二列の両面カランが並んでいて都合六列、各列6個のカランだから36人までは入れる勘定である。温泉やゴルフ場の風呂よりは大分狭苦しい。湯船は昔と同じ、普通の湯船と熱い湯船がある。そして湯船の先には、これも昔と変わらぬ富士山の絵がペンキで描かれている。今でもああいう絵が描ける職人が残っているのだなあと感激した。何とも懐かしい光景であった。
 結構混んでいた。想像が外れた。ヨレヨレの老人ばかりかと想像していたが、若い人も少なからずいる。入浴料は450円、高いか安いかは微妙である。僕の住んでいる区には週に一度、65歳以上の老人なら100円で入れる日があると言う。今日の風呂屋では、水曜日の4時から6時が高齢者の日だそうである。高齢者貸し切りと言う事ではなく、この時間に来れば高齢者なら100円で入浴出来るのだそうである。100円なら間違いなくお得である。今日は広々とした湯船に浸り、日帰り温泉よりは遥かに安い料金で、目一杯手足を伸ばして来た。体の芯まで温まり、自転車での帰り道にも冷める事無く帰宅した。気持ちが良い事この上なかった。僕も病み付きになりそうな銭湯であった。