baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 インドネシア雑感

 日の経つのは早い物で、もう今日から2月になってしまった。一昨日50日ぶりにジャカルタに出て来た。ジャカルタは雨季の最終期に入っており、気候は比較的涼しいのだが、それでもジャカルタ空港の建物から外に出た時は流石に蒸っと暑かった。10日程前までの大洪水の後遺症を心配していたが、もう水はすっかり引いて街は平常に戻っている。洪水を恐れてか、心なし車が減っているようでむしろ有り難い。洪水ではジャカルタの中心部のビルの地下駐車場で運転手4人が取り残され、2人は自力で脱出したが2人は溺死している。水が増える時にはあっという間に低い処に流れ込むから、地下などにいると逃げ遅れる。増してや車の中にいたりすればドアが開かなくなるからそのままお陀仏となる。今般死亡した2名は車の中にいた訳ではないが、休憩していて水が流れ込むのに気付くのが遅れて逃げそびれたものらしい。
 昨日は僕の止まっているホテルで、福祉正義党の党首が汚職容疑で汚職撲滅委員会に逮捕された。僕の遣うエレベーターから女連れで降りて来たところを逮捕されるのをテレビのニュースで流していた。福祉正義党と言うのはイスラム色の強い政党で、清貧で売っていたから、汚職に女連れとなればブルータス、お前もかである。僕はテレビを観ていて、現場が見慣れた風景なので吃驚した。当人はそのまま拘留され、留置場に入れられたそうである。当人は取り敢えず容疑を否認し、来る裁判に集中すると言って早速党首を辞任した。汚職撲滅委員会の活動は、国会議員も容赦しないから外野から見物するには面白い。しかし当地の事だから、何処まで公正であるかには大なり小なり疑問符が付く。大統領の側近や政権与党の財務担当も摘発されているが、政治的な駆け引きに利用されている匂いがしないでもない。しかしさしもの汚職撲滅委員会も、悪名高い大統領夫人には手が出せないようである。
 インドネシアには丁度君塚栄治陸自幕僚長が来ており、大統領とも面談、インドネシア軍と自衛隊の連携強化を申し入れたところであった。インドネシアスハルト時代は反共産主義を旗印に米軍との関係が深く、武器も訓練も米国頼みであったが、スハルトの晩年には米国との間がギクシャクしてF-16戦闘機の部品供給が止まったりし、その流れでその後は戦闘機をロシアから買ったり軍艦をドイツから買ったりしていた。最近になりオバマ大統領のアジア重視政策でまた米軍との関係が改善されて来ている様だが、そこへ日本からのアプローチがあった訳である。日本にすれば中国包囲網を築きたいのは明白であるが、インドネシアも中国の脅威に曝されているから渡りに船である。ユドヨノ大統領はこの申し入れを快諾したようである。
 当地では従来の経済を中心とした対日関係が、今後は軍事にも拡大すると好意的に受け止められている。インドネシアも1943年から日本の占領下に入り、従軍慰安婦問題もあったのだが、今では従軍慰安婦問題は既に解決済みとなっているし、中国や韓国が常に日本の恫喝材料に使う歴史認識だとか、日本の軍事力拡大への警戒感などは一切感じられない。それ程日本への信頼が大きいのである。大統領はこの軍事協力は軍隊の訓練と教育、人材発掘、防衛産業育成、対テロ抑止、災害出動の5分野に置いて重要な役割を担うと演説した。そして9月に18ヶ国が参加してインドネシアで行われる対テロ合同訓練への自衛隊の参加を招聘し、自衛隊も前向きであるとの事。インドネシア軍は装備は劣っているが国内外で実戦経験を積んでいて練度も高いと聞くので、自衛隊にとっても良い経験となるであろう。
 インドネシア観光相のマリ・パンゲストゥが今年8月31日に任期が満了するWTOパスカル・ラミー総裁の後釜を狙って選挙運動を開始したと言うニュースがある。公職では珍しく中国系の女性だが、昨年現在の職に就くまで7年間貿易相を務めていた聡明な女性である。インドネシアには女傑は多々いるが、インドネシア財務相を経てIMFの理事に就き、来年の大統領選への立候補が取り沙汰されているスリ・ムリヤニ、汚職で服役中の元中央銀行上級副総裁のミランダ・グルトムとマリ・パンゲストゥなどは中でも出色の女傑である。WTOの次期総裁を巡っては既に8人が立候補しており、今回は史上最多の立候補者だそうであるが、中でも新興国からの支持が厚いマリ・パンゲストゥはインドネシアの好調な経済を背景に有力候補の一人と言われている。汚職まみれで外から見ていると何とも頼りないインドネシアだが、こうして積極的に世界に打って出るのは良い事である。それにしてもインドネシア人の海外進出は今のところ女性の独壇場である。