baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 インドネシアで

 昨日の朝、成田を発ってまたジャカルタに来ている。先週の東京は一時春の陽気であったが、昨日の朝の東京はまた寒かった。夏服一枚でコートも羽織らずに出て来ているのに、新宿に半端な時間に着いてしまい、リムジンバスを待つ間に芯まで凍えてしまった。それでもジャカルタNHKの国際放送を見ていると、明日の東京は4月中旬の陽気だと言っている。北海道の猛吹雪と言い、昨日と明日の温度差と言い、本当に陽気の変化が荒い昨今である。
 飛行場から乗ったタクシーの運転手がお喋りで、ホテルに着くまでの小一時間、ずうっと喋り続けであった。1月の大洪水の事、その時に地下駐車場で逃げ遅れて死亡した二人の人間の事、汚職の事、最近のインフレで生活が苦しいこと、等々下層民の愚痴を延々と聞かされた。それでも根が陽気で明るいので、しばしば笑わされて決して耳障りではない。地下駐車場で死亡したのはオフィスボーイと自家用車の運転手であったそうだが、金持ちは地下駐車場になど下りて来ないから、やはり洪水の犠牲者も下層民なのである。役人は誰もが汚職で懐を肥やし、肝心な洪水対策もろくにやらないし、やっても手抜き工事だから結局は貧乏人が犠牲になると言う。
 そして来年の大統領選挙の話になり、現在名前の挙がっている候補について一人一人感想を求められた。一昔前ならこういう政治向きの話は全くの御法度で、タクシーの中で話題になる事も考えられなければ、外国人が感想を言うなどもっての外であったのだが、その運転手が秘密警察の人間にも思えなかったので思うところを、それでも多少の用心を加えてコメントした。スハルト時代には到る処に秘密警察が網を張り巡らせていて、少しでも政権批判になるような事を言えば何時連行されるか分からなかったから、誰も政治向きの話は外では絶対にしなかった。そんな事を思い出しながら、インドネシア民主化が健全に進んでいる事を改めて再認識した。
 定宿にしているホテルの横の道では、もう2年近くも大工事が続いている。この道路はつい最近までは片側一車線の田舎道であったのを、一昔前に大工事をして片側2車線の幹線道路に拡幅し、且つ交差する幹線道路とは立体交差にするなどすっかり近代的な幹線道路に生まれ変わっていたのである。ところがその道が今は慢性的な交通渋滞でしばしば交通がマヒしてしまうので、道路全体を二階建てにして交通渋滞の緩和を目指しているのである。しかも僕のホテルの横は元々陸橋で立体交差になっていたから、その部分は三階建てと言う、当地の土木工事にしたら大変な工事である。それで、当初の計画では昨年末には完成予定であったのだが、そこはインドネシアの事でもあり、未だ何時完成するか皆目分からない。
 順調な民主化の事などを考えながら何気なく車窓から外を見ていたら、その道路工事に従事している人夫が調度食事をしている処であった。10人位の人夫が道端に自分たちが掘った溝の縁に並び、地面に座って地面に置いた紙箱に入れられた弁当を手で食べている。表現は悪いが、まるで動物園でオランウータンの食事を観ている様なのである。昔から余り進歩していない、最下層の人々である。それでも今はヘルメットをかぶり草履を履いていて、手もきれいに洗ってあるようだった。昔は勿論裸足で、泥だらけの手をズボンで擦って泥を落として食べていたものである。
 今日は高級スーパーへ、毎日部屋で呑むビールを買いに行った。ホテルの冷蔵庫のビールを飲むと馬鹿高いので、自分で買い出すのが常である。オレンジに110円という値段が付いていた。立派なオレンジは輸入品なのだが、随分安いのでついでに何個かカゴに入れた。昼間だったのでレジには富裕家庭の主婦が列をなしている。女中を連れている中国人もいる。高い食材をワゴン一杯に買い込んで、女中に運ばせている。スーパーの店員が、頼めば車寄せまで運んでもくれる。勿論地下駐車場には運転手を待たせている。中国では貧富の格差と共産党幹部の汚職の問題が日に日に政治問題化しつつあるが、インドネシアでも貧富の格差と汚職の酷さは相変わらず大きな問題である。僕が払う番になって分かったのだが、オレンジの値段は100g当たりの値段で、1個の値段は320円ほどであった。そんなオレンジが山と積まれていた。