baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 民僚に泣く

 95歳の叔父は何とか昨日退院した。その足で介護施設に連れて行き、入所させて貰った。3週間近くの入院で、ベッドに縛り付けられるような毎日で、すっかり身体が萎えてしまい、排泄も自立ではままならなくなってしまった。頭は痴呆と言うのとは違うが、入院前は一点の曇りもなかったのがこの3週間で急に物忘れが酷くなってしまい、自分でも驚いているようである。介護認定も未だ受けずに自立していたのに、僅か3週間で随分な変わり様である。
 介護施設の入所手続きには色々な書類があり、署名捺印と共に必要書類が多々ある。実の親ではないので基本的には当人に契約当事者となって貰い、僕が代理署名すると同時に連帯保証する形を取る事にした。それで印鑑証明や住民票、銀行の預金通帳、届け出印などが必要となる。一緒に自宅に取りに戻ったが、長い間使っていなかった物はどれを使っていたかが判然としなくなっている。10年も前に亡くなった叔母の物が未だ大事に取ってあるので、一層ややこしい。それでも大概の物は間違えていれば差し替えが効くが、どうにも困ったのが銀行の届け出印であった。
 三菱東京UFJの某支店の通帳があり、その登録印鑑と思しき物が2つ出て来てしまった。入所費用の自動引き落としの申込書に押印するのに必要な物である。両方とも届け出印ではない可能性もあるし、ここは正式に相談しようと思い銀行に電話をした。ハードルが高いのは元より覚悟の上であった。
 しかし、それにしても想像に絶する対応には驚いた。こちらからは、それらしき印鑑が2つあるので、どちらが登録印か教えて貰いたい、どんな判が登録してあるか教えてくれと言うのではない、と切り出した。そうしたら先ずは当人を連れて来い、から始まった。それが可能なら初めからそうしている。不可能だから相談している訳である。次は当人の書いた依頼状を持って来いと来た。筆跡を照合すると言うのである。三菱東京UFJには、科学捜査研究所でもあるのだろうか。字を書くのも今は覚束ないから僕が代理署名するぐらいだし、無理に書かせて字体が違うなどと言われたらお終いなのでそれも断った。次は直接当人と電話させて欲しいと来た。施設の部屋には電話もないし、不可能ではないけれども面倒なのでそれも断った。耳が遠いので、電話が難しいのである。そうしたら今度は僕の事を根ほり葉ほり訊き出した。覚悟の上だから回答はしたが、電話口で問い質すだけなのに住所氏名電話番号は当然としても僕の生年月日やら何やら、思い付きの様な質問までする。それとこれと如何いう関係があるのかと訊いたら黙ってしまった。身元の確認なら窓口に免許証を持って来てくれとでも言えば済むではないか。なりすまし詐欺対応のマニュアルでも見ながら質問していたものであろうか。
 挙句は上司と相談するので待って欲しいと電話が切れた。先方から電話を懸け直すのはこの際常識であろうから、それは良い。待つこと20分以上、やっと掛かって来た電話では色々釈明はしていたが、結論はどうしようもありません、との事であった。困っている客の事は二の次、三の次、要は自分たちの保身しか考えておらず、面倒な事は持ち込まないで欲しいと言う断りなのであった。預金名義人は未だ存命中なのに、金は口座に凍結されると言う事である。仮に同姓の僕が窓口に行って二つの印鑑を見せて、どちらかであると教えて貰う、或いは何れも登録印ではないと教えて貰う事に、銀行にはどんなリスクが発生するのであろう。僕の側から言えば、当然免許証などを見せて、恐らくはコピーも取られて、中々悪い事もし難い状況なのだが、それは別としても、それで僕が預金から金を窃盗したとすると銀行は何か罪を蒙るのであろうか。
 僕は仕方がないので自宅の近くの別の支店に行き、小額の現金引き落としをあてずっぽうで一つの印鑑を押して試してみた。それで何事もなく現金を呉れた。どちらが登録印か分かったので、引き下ろした現金は直ぐにATMで戻しておいた。要するに真面目に相談しなければ斯くも簡単な事を、敢えて相談したが為に酷く面倒な事になった挙句に、何の力にもなって貰えなかった。これを民僚と言わずして何と言おう。それにしても、高齢者が急増している昨今は今日の僕の様な例も少なからずあると思われるのだが、三菱東京UFJももう少し親身な対応を考えたら如何であろう。