baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 円高是正の余得は分配すべし

 アベノミクスの影響で、少しづつ企業の内容が上向いているようである。今の日本の経済は、先ず企業が稼ぎ、国の税収を増やし、従業員の年収を上げ、国内需要を喚起する図式でないと回らない。その意味では少しでも企業の業績が上がるのは大いに結構なことである。しかしどうも実感としてはアベノミクスは未だ張り子の虎で、実体のない投機資金の暗躍を除外すれば、実際に良い影響が出ているのは一部の業種に限定されているように思える。これから消費増税を控え、国民が一丸となってこの難局を乗り切り、出来る限り多くの業種で景気を回復させ、財政赤字を縮小させる処まで持って行くには未だ当分茨の道が予想され、我々全員に当分は正念場が続くとの覚悟が要る。
 そんな厳しい環境の中でも、この半年で急激に業績を回復している代表が自動車産業である。数日前にトヨタの今期の純利益が1.9兆円に倍増するとの見通しをテレビで流していた。最大の上振れ要因は円高是正であると言う。民主党政権の無能無策で対ドルが70円台に張り付いてしまった為替では、輸出産業がまともに立ち行かないのは当然であった。それで各社とも必死のコストダウンを図り、社内の合理化は元より、下請け、孫請けを情け容赦なく値切り倒してやっと決算をしていた筈である。それこそ死活を賭けて必死であったろう。下請け、孫請けも、注文主がいなくなっては即倒産だからご無理ごもっともで無理難題を甘受して来たであろう。そんな血の出るような努力の結果、未曽有の円高下でも皆何とか決算して来た。
 それがこの半年で、あっという間に100円前後まで戻った。単純に言えば、ドル建てで同じ値段で売っていれば黙っていても20%余計に儲かる事になる。トヨタが純利益倍増になるのもむべなるかなである。しかし、今まで散々下請け、孫請けを泣かしておいて、今度は利益が出たら独り占めと言うのは余りにも虫が良い。下請け、孫請けは大企業には円で売っているから円高是正の恩恵とは無縁である。しかも儲かったから仕入れ値を上げてやる、などと言う話は古今東西聞いた事がない。一旦下がった値段は、少なくともエネルギーや材料費などの外部要因に左右されるコスト以外は、二度と元には戻らない。何故なら中小企業の下請け、孫請けは大企業に物が言える立場にはないからである。大企業とその下請け、孫請けとの間には横綱と序の口位の力の違いがある。
 しかしこれは明らかな不公平である。誰が如何できるものではないが、円高是正の恩恵を蒙っている大企業の経営者よ、一人で悦に入って役員報酬皮算用をする暇があったら、少しは下請け、孫請けに還元する事を考えては如何であろうか。僕の大嫌いなカルロス・ゴーンの昨年の日産のCEOとしての年俸は11億円ぐらいだったと記憶するが、日産の下請けのえげつない値切り様は一時は業界でも語り草であった。それでも日産が倒産するかどうかの瀬戸際であったから仕方がないと概ね受け入れられていたが、その結果がゴーンの個人報酬11億円、これは日本の常識では受け入れ難い数字である。恐らく今年はもっと増えるのであろう。しかし日本古来の心を少しでも理解するなら、感謝の気持ちを込めて協力企業に多少なりとも余得の一部を還元するべきなのである。カルロス・ゴーンにこんな説教をしても聞こうともしまいが、せめて他の企業の日本人経営者には一顧の時間を割いて欲しいと切望する。そういう今の世の流れとは相反する心遣いが、日本の経済再生を間違いなく後押しする筈である。そんな事をすれば今の経営者個人の生涯年収は少し下がるかも知れないが、それで孫子の時代の日本が少しでも良くなるのなら、そんなに欲張らなくても良いではないか。