baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 詐欺の手が

 オレオレ詐欺の話などを日頃新聞で目にして、如何してこんな単純な話に引っ掛かるのかと訝しく思い、自分なら絶対に大丈夫と思っているのは僕だけではないと思う。
 そんな僕にも、先日知り合いからメールが届いた。自分のパソコンに登録してあるメルアドからのメールなので、発信者は知り合いの名前になっている。だから何の疑いも持たずにメールを開けてみれば、知り合いからトルコで泥棒に手荷物全てを盗まれてしまい、如何にも身動きが付かないので助けて欲しい、取り敢えず急場の金を送って欲しいとの懇請のメールであった。良く知っている、しかも以前に世話になった事もある恩人からのメールであるから無碍にも出来ず、如何したら良いのか問い合わせた。
 すると直ぐに返事が来て、Western Unionと言う便利な送金機関があるのでそこから850ユーロ、円にすれば12万円程を至急送金して欲しい、帰国次第必ず返す、と言って来た。この時点では僕は殆ど疑いを持たずにいた。金額にしても何だか引っ掛かり易い金額である。ただ、Western Unionと言う機関については何等知識がなかったので、ネットで調べてみたらクレジットカードからでも送金可能で、しかもその金の受け取りも送金人から一種のパスワードを知らせて貰えば何処ででも、誰でも受け取り可能な、如何にも犯罪には打って付けの送金方法である。
 ところがそんな便利なWestern Unionも、日本からはクレジットカードでの送金は不可、またセブン銀行やファミリー・マートからは事前の口座開設や登録が必要で、且つトルコなど特定国向けの送金は9時から17時までと限定されていた。僕はセブン銀行には口座はないし、ファミマの登録もないので、送金するには大手質屋等が窓口となっているWestern Unionの代理店に現金を持って出向く必要があった。ところが知人からのメールを開けたのが夜遅かったので、もう当日の送金は不可能で翌朝まで待たねばならない。この一瞬の間が、僕には何とも幸運であった。
 少し時間が出来ると、徐々に疑問が浮かんできた。どうして僕に頼んで来たのだろう、家族は同行していて役に立たないのだろうか、等々。しかし自宅の電話番号は知らない。そして、この時点では未だ詐欺と決めつけるよりは知人の急場を助けねば、と言う思いが強かった。取り敢えず即日の送金は無理である旨をメールして翌日まで待つように伝えると同時に、念の為に彼と僕に共通する、しかも絶対に彼が覚えている場所の電話番号と友人の名前をメールするように頼んだ。「気を悪くしないで欲しい、飽く迄も念の為」と断った。ところが戻って来た返信では、「携帯が盗まれたので電話番号も全て分からなくなった、しかし本当に困っているので直ぐに送金して欲しい、金は必ず返す」との事。この期に及んで僕はやっと詐欺である事に気付いたのである。
 お恥ずかしいが、米国など他の国同様Western Union経由、ネットで夜中でも直ぐに送金できていたなら、僕は恐らく引っ掛かっていたのではないかと思う。メルアドが知人のものであったから、頭から知人からのメールだと信じてしまったのが誤りの初めであった。そしてメールの中身も如何にも知人からの、本当に困ったメールの様に読めたし、金額もいかにも急場凌ぎのそれらしい金額である。知人が外国人であったので、メールが英語であったのも却って僕の猜疑心を薄めてしまったのかも知れない。
 冷静に考えれば、どこにでもありそうな、典型的な作り話である。実際、トルコに限らずフィリピンだとか南米の何処だとかを語って、同様のメールが頻繁に来る人もいるそうである。しかし、僕には初めての経験であったから、お恥ずかしい限りだが、殆ど引っ掛かっていたと言える。他人の話ならまさかと思うような事が、いざ自分の事となると冷静さを欠くと言う事を思い知らされた詐欺未遂事件であった。