baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 大統領選挙II

 インドネシアの大統領選挙も来週の月曜日に近付き、選挙戦も終盤である。テレビでは連日、両候補の動向や論戦を報道している。当地のメディアは旗幟鮮明としているので、チャンネルにより、新聞により、酷く偏った報道となる。巨大メディアのオーナーが一方の候補者と並んで礼拝している場面が報道されたりもする。他方で、国会議員選挙とは異なり道路での選挙運動は殆ど見掛けず、断食中である事と相俟って道路は至って大人しい。
 そんな中で、相手方に対するネガティブ・キャンペーンもあり、プラボウォ派が仕掛けた中傷が問題になっている。そこではジョコウィは中国人だとか、ムスリムではないとか、ジョコウィの知事時代の功績は嘘八百だ、と言った事が書かれていると言う。インドネシアの大統領選では、ジャワ人である事が実際には非常に重要なファクターであり、またムスリムである事も集票には重要な要素である。ジョコウィ側は、これ等は事実と反する誹謗中傷であると打ち消しに必死である。ジョコウィ派のテレビでは、ジョコウィがイスラムの礼拝をしている姿を映し、或いはジャワのプサントレン(イスラム寄宿学校)を訪れた姿を放映したりと、ジョコウィが敬虔なイスラム教徒であると言うイメージを流し続けている。このプラボウォ派のネガティブ・キャンペーンを、或る者は逆効果と言い、或る者は知識の乏しい民衆にはそれなりの効果があると言う。
 ユドヨノ大統領率いる民主党は従来の方針を突然覆し、プラボウォ支持を明確に打ち出した。当初の予想を覆し、劣勢を急激に盛り返して今や伯仲している選挙戦終盤に来ての民主党のプラボウォ支持方針である。この事にどの程度のインパクトがあるのか、僕には判断しかねるけれども、ジョコウィ陣営にとっては痛手である事は間違いないと思われる。益々選挙の行方は混沌として来た。
 プラボウォ陣営では最近になり、スハルトの次女でありプラボウォの元妻であるティティットが頻繁にメディアに登場する様になった。縒りを戻してファースト・レディーの座に着きたくなったものと見える。プラボウォも、自分が大統領になったらスハルトの功績を見直し、彼を国の貢献者(ヒーロー)として顕彰すると公言している。
 プラボウォを支持するゴルカール党、元々はスハルト時代の大政翼賛政党だった訳だが、その党の党首、アブリザール・バクリはシドアルジョのガス田掘削ミスによる泥流噴出災害を起こしている企業の総帥でありながら、事故から8年経つと言うのに未だに国が定めた補償金を払っていない。英国でも彼のグループ企業が裁判の末に敗訴して、莫大な金額を請求されているなど、満身創痍なのだが、そこへジョコウィの様な市民派の大統領が出て来てシドアルジョの補償金を直ぐに払えなどと言い出したらいよいよ困るので、必死の選挙戦でもあろう。僕はアブリザール・バクリは大嫌いな男の一人なので、例え無一文になる事はなくとも大打撃を受けるなら、僕にはこれ以上の痛快は滅多にあるまい。
 他方のジョコウィは、最近急に貫禄が出、落ち着きが出て来た。当初は何処か重みがなく、この男にインドネシアという大国の大統領が本当に勤まるだろうかと僕でも心配であったのだが、この頃急に大統領になっても可笑しくない雰囲気が出て来ている。大統領候補として全国を行脚している中に、自然に風格が醸し出されたものと見える。僅か一ヶ月弱の短期間での事であるだけに、やはりこの男は只者ではない様に思われる。
 元スハルトの懐刀であった軍総司令官のウィラントや、同じく将軍であったアグン・グメラールもジョコウィ支援に回っているし、実業界の大物もジョコウィ支援を明確にしている。ウィラントやアグンがいれば軍の支持もある程度は取り付けられようし、実業界にも一層の改革を望む人達がいるという事である。何よりも、ジョコウィが大統領になれば、結局は同じ穴の狢であったユドヨノと違い、従来以上に汚職摘発には厳しく望むであろう。汚職ランキングで常に下から数番目、百何位を争っているインドネシアにとっては、汚職撲滅は究極の命題であるから、汚職摘発に厳しい事は大いに結構なのである。僕には一票はないけれど、昨今のジョコウィを見ていて、今回は是非彼に勝って欲しいとの思いが明確になって来たこの頃である。