baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 サロン・コンサート

 今日は都内で開かれたサロン・コンサートを聴きに行った。ピアニストとチェリストのデュオ・コンサートである。ピアニストの事は良く知らないが、少なくともチェリストはアマチュアである。尤もアマチュアと言っても実際は玄人裸足の大層な腕前なのだが、しかしアマチュアはアマチュアなのである。僕は以前からこのチェロ弾きの男のコンサートを聴きたかったのだが、今日までどういう訳かチャンスがなかった。何故気になっていたかと言うとこの男、国内のコンクールで何やら賞を取ってみたり、名刺に刷ったら入り切らない程沢山の肩書がある、かと思えばシリーズ物の本を執筆したり、随分と多才の上に、「猫とヨーグルトをこよなく愛する」などとちょっと人を食った処もあるので一度実物を拝んでみたかったのである。ところが数日前、はからずもこのコンサートの事を知り、元々今日は天気が良ければバイクに乗ろうか程度の予定しかなかったのが幸いであった。
 初めての場所なので少し迷い、時間ぎりぎりになって会場に着いたが、既に60人程の客席は満員であった。時間になりコンサートが始まった。と言っても別にステージがある訳でもなく、照明が変わる訳でもない。子供や赤児を連れた人もいる。開会に先立ちチェリストから、このコンサートは子供や赤児も連れて来て良い事にしているので、多少の雑音は聞き流すように、一方で余り騒がしい時は裏にスペースがあるから其処へ連れて行って欲しい、とのユーモアを交えた注意があり、途端に会場は和んでしまった。チェリストは肩書から想像していたよりも余程優しい男の様である。
 聴衆の多くは演奏者のファンの様で、既に何度か聴きに来た事がある様な、クラブ的な雰囲気を作っていた。他方、何しに来たのだが訝しい、演奏が始まると直ぐに舟を漕ぐ人もいた。しかし場内の雰囲気は極めてアットホームで、その雰囲気を感じて初めて僕は演奏者達のコンサートの目指す処が分かった様な気がした。間もなく狭い会場は人いきれで蒸し暑くなり、楽器には随分と苛酷な雰囲気になってしまったが、チェロは最後まで良く鳴っていた。
 プログラムは何れも小品で、15分の休憩を挟んで11曲あった。小品と雖も中には随分高度な技術が要求される曲もあり想像以上の演奏だったのだが、圧巻は曲ごとに冒頭にチェリストが付け加える解説で、これが僅か一分ほどなのだが博識の中に巧みにウィットを織り交ぜて、聞いていて実に楽しいのである。そして演奏では、どれも楽しめたのだが中でも二曲目のアンコールの、アルヴォ・ペルトシュピーゲル・イム・シュピーゲルと言う、僕は初めて聴く曲であったけれども簡素で美しいメロディー〜簡素なだけに演奏は非常に難しいと思うのだが〜を実に綺麗に謳いあげて、特に秀逸であった。音楽の聴き方にも色々あると思うが、今日はサロンでなければ味わえない、極めて優しい雰囲気で、音楽を愛する人たちだけが寄り集ったといった趣の、実に心温まるコンサートであった。