baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 バイク

 プロフィールにも書いた通り僕の趣味の一つがバイクである。色々な人に、バイクみたいに危ない物にどうして乗るの、見てるだけで恐い、止めた方がいいよ、と言われ続けている。生まれた時から頭の上がらない兄貴には、あんな乗り物に乗るのは責任感の欠如している奴だけだ、と怒られたりもした。確かにバイクは危ない。
 先日も友人が軽井沢で車と衝突した。事故は目撃していないのでしかとは言い切れないが、事故現場を見る限りは80%は車の方に責任がありそうだ。車のダメージと言えばバンパーが少し曲がったのと、バンパーの上のタイヤハウスが落ちかけたのと、ウィンカーが取れてしまった以外は殆ど無傷で、タイヤハウスがタイヤに当たる事もなく、乗員は全員無傷である。他方、ライダーはといえば、皮の上下がボロボロ、バイクはほぼ全損、前輪のホイールのスポークまで折れてしまっていて、車軸と車輪が分離している。プロテクターをしっかり付けていたお陰で大怪我はせずに済んだが、バイクだけ見れば大事故の様相である。僕も犬にぶつかっただけで都合6週間も入院したことがある。かくもバイクは一方的に損をする危ない乗り物である。
 しかし、それでも止められない。バイクを運転している時の注意力と車を運転中のそれは10倍位違う。バイクなら、視界の中で何かが動けば直ぐに反応する。信号が青でも大きな交差点を突っ切るのは恐い、何故なら相手が信号無視であろうが何であろうが、とんでもない奴が飛び出して来て衝突すればこちらは命の保証もない。だから常に緊張して、最大限の注意力で乗っている。船乗りは、板子一枚下地獄、だが、僕等バイク乗りも一寸先は地獄の世界で走っている。のだが、実はこの緊張感がまた魅力の一つでもある。
 僕は55歳になって初めて大型自動二輪の免許を取り、最初に買ったバイクが1200ccのスポーツバイク、正直初めは恐かった。本気で加速すると脳内の血液が体の方に下がってしまい、貧血の状態になるほどのバイクなのである。友人達からは、免許取り立てでこんな恐ろしいバイクに乗ったら絶対に長生きしないから、後生だからもうすこし大人しいバイクに乗って欲しい、と懇願された。
 だが、そもそも大型自動二輪の免許を取ろうと思い立った原因が、何ともいえず可愛いこのバイクなのである。そのバイクを買わずして何のための免許なりや、である。最後は卒検に落ちたりしてウロウロしているうちに、免許もないのにバイクが先に納車された。当時ですら、教習所の生徒や教官の中では、どう贔屓目に見ても僕が一番年上であった。
 出掛ける時は一人で、日帰りが多い。自分のペースで走れて誰にも気兼ねしないからソロになってしまうし、準備もなしで思い付いたら出掛けるので日帰りになってしまう。バイクと温泉は付き物なのだが、僕は殆どアルコール依存症なので、アルコール抜きの温泉はパスである。
 バイクはやはりつづら折れの道が楽しいので、どうしても山に行く事が多い。海岸沿いでも西伊豆などは面白い。一方、高速道路は恐いばかりでちっとも面白くない。今までに日帰りで一番走ったのは、東京から白川郷まで、最短距離ではなかったので往復820kmである。しかも高速を使ったのは200km程度、後は全て下道(一般道)であった。距離だけで言えば、高速が乗り放題1,000円となった直後に、一日1,000円でどれだけ走れるかと今年の4月に馬鹿な事をやり、東京から関越で長岡、そこから北陸道米原、次は名神で名古屋、そこから中央高速で諏訪湖経由八王子、家から家まで1,111kmというのがある。高速代は東京近郊の別料金を入れて1,950円、ガソリン代は7,800円、所要時間は11時間45分、こんなにつまらなくて疲れたツーリングは後にも先にもこの時だけである。釧路から東京まで、1,410kmを26時間で帰ったこともあるが、この時は途中青函フェリーで3時間ほど寝ているので、正確には日帰りではない。この話をすると、僕の事をサイボーグとかアイアンバット(鉄の尻)とか、失礼な事を言う輩がいる。
 バイクは、恐怖と背中合わせの緊張感が良い。風を直に感じるのが良い。匂いがまともに鼻に来るのが良い。景色をガラス越しではなくて直接見られるのが良い。道路のデコボコや路面状態を直接お尻で感じながら、お尻で後輪を押し出す感じが良い。走っている時の孤独が良い。暑い時は底知れず熱く、寒い時は骨の隋まで凍えるのが良い。恐い以外は全て良い事づくめ、こんなに素晴らしいスポーツは他に無いと思っている。何時まで体力がもつか分からないが、出来る限り乗り続けたい。

          (北海道・美幌峠で)