baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 事業仕訳

 民主党議員や外からの助っ人の事業仕訳の作業の遣り取りがニュースに流れる。とにかく選挙公約を少しでも実現する為の資金作りだから、否も応もない。自分達のバラマキ選挙公約に少しでも多く予算を回そうと必死である。実際に無駄な予算はあると思う。また、既存の制度では対応しきれていない無理な予算もあると思う。だから見直しは良い事だと思う。しかし、斯くも結論ありきで中身の検証を怠る、というよりは検証する能力の無い人達に委ねる拙速な遣り方では、本当の無駄を省く事は望むべくもなく、削り易いものから手当たり次第という現状のような事になってしまう。今、事業仕訳は「東京裁判」と言われているそうだが、良く言ったものだ。判決ありきだから、どんな正論にも耳を貸して貰えないのだろう。もう少し時間を掛け、本質的な議論を重ねて、なるべく他に歪が出ない形で纏めて行けば意義のある仕事だと思うし、本来はこういう時にこそ、日本の将来のあるべき姿を描き、その原則に則ったメリハリのある采配が望まれるのである。残念ながら今の民主党は政権を奪取して未だに浮かれ上がったままで、何か新しい事をするのが目的になってしまっているように見える。
 まともな議論になっていないので正直どこまで無茶が通っているのかも分からないが、世界最速を目指すスーパーコンピューターを作るプロジェクトの僅か二百数十億円の予算が全額見直されるようだ。某若手女性議員の「どうして世界最速でなければいけないのか」、とか外部委員の「世界第二位でいいじゃないか」とかの、己の無知をアピールしているのをニュースに流されていたが、こういう発言を恥ずかしげもなく出来る程度の知見で物事を判断しているのかと思うと、他の事案も押して知るべしである。本当に予算が足りないのではなく、票集めの為にバラマキを公約したマニフェスト実現に回す予算がないというレべルの話だから呆れる。
 数日前に世界のスーパーコンピューターの性能を外国の機関が比較したものが新聞に出ていたが、日本はいまや世界30位にも入っていない。代わりに目を引いたのが中国の世界第5位である。上位は勿論アメリカが独占している。技術立国を標榜する日本の、しかも今後日本が拠って立つIT技術ですらうっかりすればこの程度なのである。世界の技術革新競争は日進月歩どころか秒進分歩である。常に必死の努力をしていなければあっという間に置いて行かれ、技術後進国になり下がる。そして民間任せでは世界に取り残される。
 こういう激しい技術革新競争の中にあって、世界一を設計の目標にせずに世界第二位を目標にする、というよりは第一位を目標にする事を端から諦める、などという馬鹿げた話は聞いた事もないし、初めから低い目標を設定すること自体既に目標を見失っている。世界一を目指さないのなら、誰かの既存技術を真似すれば良いだけである。そんな発想では技術発展が全く伴わないのは物作りを少しでも知っている人なら常識である。世界一を目指して必死の努力をして、それでも出来上がった時には世界一になれないかも知れない、というのが現実である。
 資源もなく、物作り、先端技術で立国している日本をリードする政治家が、この程度の知能で大事な技術開発と高速道路無料化を同じ土俵で考えているのは、どう考えても情けない。そのくせアフガニスタンには従来の海上給油活動の5倍もの予算をコミットしているのである。こんなことを続けていたら日本は本当にダメになる。
 同じく、中型ロケット開発は中止されるようである。ロケットが打ち上げられる技術があると言う事が、その国の技術力の一つの評価基準であることは間違いない。H2AH2Bと大型ロケットを開発して来た我が国が、中型ロケットを開発し、小型衛星を安価に自前で打ち上げられるようにし、衛星打ち上げビジネスの幅を広げる事に、僕は賛成である。将来儲かる事業にすれば良いのである。また個体燃料ロケットという、糸川英夫から受け継がれて来た日本独自の技術を絶やさぬようにする事も重要だと思う。中型ロケットの開発中止は返す々々も残念であり、願わくばスパコン共々復活することを祈りたい。
 そもそも、スーパーコンピュータでもロケットでも、その開発で培われた技術が基礎技術として周辺技術の発展に寄与し、また産業界の競争力強化に繋がるのである。だから、スーパーコンピューターや中型ロケットの意義だけを見て物事を判断すると大きな間違いを犯す事になる。初めから予算削減ありきで中身には少しの知見もない全くの素人が、一件一時間という根拠のない時間枠の中で政権に良い顔をする為にやっている仕事だから、あまり外野が熱くなって腹を立てても仕方がないのだが、つまらないマニフェストに拘って大事なプロジェクトを潰すのを静観するのはどうにも辛いものがある。そして、政治主導という名の下の、無礼千万な−若手議員たちの己の無知を棚に上げた、相手を見下した物の言い様は聞くに堪えない−政治家達の無能、無策にただただ危うさを感じるのである。