baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 インドネシア旅行記(5) 〜 クラカタウ (2)

 暫くしてから、スマトラ島南部のランプンに行く機会があった。ランプンにはジャカルタから飛行機も飛んでいるが、機材が小さく20人も乗れない飛行機なのに加え、飛行場もプルタミナの飛行場から飛ぶ完璧なローカル線なので、事故を恐れて車で行く事にした。車で行くのは、西ジャワの港町メラックからフェリーで2時間程かけてスマトラ島に渡り、そこからまた車で小一時間の道のりである。メラックの町の南西側には今は石油コンビナートが出来て、大きな化学工場が沢山あるが当時は未だそれほど開けていなかった。フェリー乗り場は町の北側にあり、鄙びた場所であった。当時のメラックは西日が海に落ちる場所として有名であった。
 フェリー乗り場にはクラカタウ関連の展示室があり、オランダ時代の古い写真などが展示してあった。フェリーは船室、と言ってもベンチが並んでいるだけの広間だが、は名ばかりでとても乗客を収容しきれる広さは無く、しかも冷房も入っていないので殆どの乗客はデッキに出て海を見ている。僕もその一団に紛れて海を見ていたら、「左手にクラカタウが見える」とフェリーがアナウンスしてくれた。直ぐに探したところ、遠くに噴煙をあげている小さな黒い島が見付かった。チャリタの漁師が言っていた島は確かにクラカタウのすぐ近くに見えたが、紛れもなく別物で会った。クラカタウは、探してようやく見付けられるほど小さい。チャリタから近付こうとした時は兄島の陰にすっぽり入ってしまって見えなかったのである。この時に初めてクラカタウ島を遠望した。しかしもう漁船をチャーターして行く気にはなれなかった。見た目より遥かに遠いのである。しかし諦めた訳ではなかった。
 それから大分経てからの事である。知り合いが自分のボートでマグロのトローリングに行くので一緒に行かないかと誘われた。正直、釣りは趣味ではないので逡巡していたのだが、聞けばクラカタウの近くに行くと言う。あの辺りは潮の流れが速くトローリングには向いているとの説明である。それで、釣りは気が進まないけれどクラカタウを見たいので乗せてくれ、と同乗させてもらった。
 やはりアニェールから出掛けた。250馬力の船内機を2機備える全長10mほどのクルーザーなので、船足は時速60km位。チャリタで雇った漁船とは月とスッポンである。それでも1時間半ほど掛り、兄島を回り込んだらお目当てのクラカタウがあった。

(やっと辿り着いたクラカタウ島)


(近くで見れば不気味な活火山である)

 船はトローリングを始める。僕は頼み込んで島の周りを一周して貰う事とし、早速写真とビデオの撮影に取りかかったが、トローリングは船足を10km程に落とすので船の揺れがゆっくりと大きくなる。そんなところでファインダーを覗いて一生懸命水平を保つ努力を続けていたら、10分も経たないうちに酷い船酔いに罹ってしまい、それから後はキャビンで気つけ薬を飲みながらひたすら横になって吐き気を抑える羽目になった。他の連中は釣った魚を捌いて持参の醤油とワサビでビールを飲みながら大騒ぎをしていたのだが、僕はまったく身動きできなかった。
 クラカタウは今でも時々噴火している。未だ動物は住んでいない。勿論無人島である。写真でも分かる様に植物は海際に多少生えていたが、蜘蛛が運んだ種子が自生したものだそうである。蜘蛛は風に乗って何十キロも旅をするそうで、クラカタウに最初に着地した生物は蜘蛛であると聞いた事があるが、真偽の程は僕には分からない。今でも成長を続けている島だから、この写真の形とは現在はまた異なっているのであろう。少なくとも山頂の高さはこの写真より100m以上高くなっている筈である。地球が未だ活動を続けている証である。
 こうして、僕のクラカタウ観光は苦労を重ねた挙句にやっと実現したのだった。上の写真は、そういう苦労の末に撮れた貴重な写真なのである。機会があればもう一度最近の姿を見てみたいものである。