baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 製造業の空洞化

 昨日、某中小メーカーの若い経営者と懇談する機会を得た。このメーカーの製品はB-to-Bの製品で一般には知られていないが、業界では世界的なブランド力がある。しかし昨年は世界的な不況で業績は全く不本意な結果に終わったそうだ。業界全体が世界同時不況の影響を受けているため、同じ業界の大手メーカーも軒並み業績不振である。しかもこのまま国内で努力を続けても、国内マーケットの縮小、労働市場の硬直化、最低賃金の上昇、変わらぬ高率の法人税円高、恐らく近々創設されるであろう環境税、などの重荷から今後の見通しが立たず何れのメーカーも製造設備の中国を初めとする新興国への移転を検討していると噂されている。そうなればこのメーカーも迷わず海外移転すると、この若い経営者は即座に言い切った。別にこの業界に限らず製造設備の海外移転はどこの会社でも大なり小なり検討しているであろうから、今更驚くには当たらない。
 尚、環境税が導入されると、ガソリンのみは暫定税率がそのまま適用されようから影響はないが、それ以外の化石燃料、つまり石炭や重油等のユーザーにとっては新税となり新たなコスト負担となると心配される訳である。
 確かにこの中小メーカーの技術力は世界的な水準にある。既に小規模乍らも海外オペレーションもやっていて、海外経験も持っている。しかし、このメーカーの規模では技術開発と製造を分ける事は理論上は可能でも実際上は非常に難しかろうというのが僕の見立てである。勿論販売が不振であれば企業は生き残れないのだから、目先の生き残りを考えるのは当然である。ところが目先の生き残りの為に製造を海外に移転してしまうと中小企業では技術開発が止まってしまい、中期的にはやはり生き残りが難しくなると思う。 
 最近高炉大手が相次いで海外に生産設備を建設すると発表した。5年もすると高炉各社の生産量は国内と海外が拮抗するようだ。大手企業はそれでも組織の規模が大きいから生産は海外にシフトしても技術開発は日本でという図式が成り立つであろう。高炉のような温暖化ガス排出量が多く、付加価値の比較的小さい業種は技術開発の余地も大いにあろうし、それが日本企業の従来の、そして今後は今まで以上に、生き残っていく力になるのだから引き続き技術開発には力を入れて欲しい。
 製造業の国内空洞化は歴史の流れで、ある程度はや已むを得ないとは思う。他方、国として何の手も打たずに流れに任せていては物造りの日本はあっという間に消えてしまうのではないかと危惧する。資源のない日本にとって、物造りの日本であり続ける事が非常に重要である筈である。しかし日本の政府に明確なその政策があるようには思えない。
 問題は単に物造り日本が消滅するのみならず、こうして国内の空洞化が進めば、幾ら現政権のように国内市場の活性化による経済発展を旗印にしても内需は伸びない事だ。更に雇用はむしろ減少して行くであろう。どうしても海外移転が避けられない業種もあろうが、そういうケースを別にすれば、政府の経済政策次第では一般的には必ずしも国内では競争力が保たないという事では無い筈である。
 まず法人税率は真っ先に見直されなければならない。現在の民主政権では真面目に取り上げられていないようであるが、世界で最高レベルの法人税を払い続ける余裕はもう日本企業には失われていると思わなければなるまい。
 そして雇用政策の柔軟化である。製造業への派遣社員の禁止は、現在職のある派遣社員が正社員になる面だけ見れば一見良い事のようであるが、この半年、職にあり付けない派遣社員がどれだけ出たか政府は認識しているのであろうか。幾ら年末だけ派遣村などで世間体を繕っても、本来派遣村に寝泊まりする人がいることが問題である訳だ。更に海外の労働力を国内に取り入れる制度も早く真剣に議論すべきである。確たる政策を持たないまま放置してあるこの問題は、他の名目で就業させて低賃金、保険なし、で消耗品のようにこき使われる外国人労働者の悲惨な問題として早晩放置できなくなると思う。
 それと為替政策である。為替は勿論原則は市場に任せなければならないが、そこに厳然たる政策があれば中長期的にはある程度の水準をコントロールする事は可能な筈である。強いドルを掲げる米国は、幾ら経済が叩かれてもドルの価値にはそのまま反映していないのが一例だと思う。勿論為替は複雑で簡単ではないのだが、デフレ対策も含め、国の経済政策の根幹を成す一要素である。それだけに確固たる政策を持たねばならない筈である。昨今の財務相発言のような場当たり的な思い付きではない、国としての確たる目標を掲げるべきである。

 これら諸点を早急に見直し、物造り日本の伝統を政策面からも維持・発展させて欲しいものである。