baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 日野眞希江さんのパステル画

 ニューヨーク在住の日野眞希江さんからカードを頂いた。日野さんは独特のパステル画で有名な、知る人ぞ知る絵描きである。詳しくは知らないが、特段画の勉強をされた訳ではないようで元々は何処かにお勤めだったが絵心捨てがたく、早くからニューヨークに移られて、彼の地でも日系機関に勤務される傍らひたすら独学で絵に精進されたようだ。そして、独特の表面に砂を捲く技法を会得されたようだ。と言っても、失礼ながら大分昔の話である。
 僕が初めてお会いしたのはもう5年位前になるだろうか。日本で個展を開かれた、その時に初めてお会いした。僕の友人の画商が力を入れていて、その画商の紹介である。僕は彼女独特の、表面が少し粗れたパステル画に一目惚れした。そして、お会いする前だったか後だったか定かではないのだが、急逝した母からの形見と言って父が母の預金から分けて呉れたお金を彼女の絵に換えたのがお付き合いの始まりであった。
 その時の絵は、一枚は「冬のかもめ」という題の、雪の降りしきるニューヨークの公園に戯れる無数の鴎と、雪に煙る景色が描かれている小品である。全体に乳白色に統一された冬の寒い景色なのだが、見ているとそこはかとなく人間の温かい息吹が感じられる作品だ。もう一枚は「プリムラ」という題の、その名の通り幾つかの鉢と、咲き誇るプリムラに青い小瓶が色を添えている絵である。独特の粗れが鉢の質感と微妙にマッチして、何とも言えない雰囲気を醸し出している。どちらも毎日眺めていても決して飽きない。
 そんな彼女の個展が昨秋また某デパートで開催された。20点余りが並んでいたろうか。その中に、一目で心臓を鷲掴みにされる絵があった。「すもも」という題の、それ程大きくない作品なのだが、すももの色合いといい、そのワインレッド色の表面に吹いている白い粉、ではない何だろう、といい、絶妙な質感と色なのだ。喉から手が出るほど欲しくなったが、僕にとっては決して安い買い物でもなくその日は見るだけで我慢した。
 しかし、何時まで経っても忘れられないどころか、益々所有欲が募って来る。思い余って大分経ってから半ば諦めながら友人に電話を入れたら、話は幾つかあるが未だ確定した話はないとの事、間に合ったのだ。その場で話をつけて、僕のコレクション−と言ってもやっと三枚目だが−に加わる事になった。その後未だ引き取りに行く時間がなくて預けっ放しだが、心はもう豊かで、その絵を想い出すと寒さも忘れる程である。
 この絵は日野さんにも特別な思い入れのある絵との事。友人も何れ僕から電話が入る事を見抜いていたような節もある。そして友人から僕が手に入れた事を聞き、わざわざカードを送って下さったのだ。娘を嫁入りさせたような文面である。早く取りに行って、三枚一緒に掛けられるほど我が家には壁面がないので、取り敢えずはプリムラと掛け替えようと思っている。何とも楽しみである。