baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 「友愛」外交と現実

 米中関係が緊張してきている。明日オバマ大統領がダライ・ラマと会談する。再三の中国の牽制を退けての会談である。会談が実現したら中国は報復措置を取ると言っている。お互いに駆け引きであるからどういう進展になるかは分からないが、少なくとも一時的に緊張は高まるであろう。
 チベットは1958年に中国に武力で併合された異民族の地域で、新疆ウィーグルと同じく中国の覇権主義如実に表れている問題地域である。最近では北京オリンピックに合わせたようにチベットで暴動が起き、それに呼応してウィーグルでもチベット程には注目されなかったが散発的な暴動が起きた。特にチベットは世界中から人権問題として注目を浴びたから、中国が今最も神経を立てている問題である。現在も厳しい報道管制を敷きながら、軍の警備を強化し独立運動のシンパの摘発に力を入れ、一層積極的な漢民族の移住を進めていると聞く。既にチベットでは漢民族の比率が4割近くまで増え、中国語の使用が強制されているので徐々に中国化が進んでおり、チベット古来の独特の伝統が廃れて行くと懸念されている。中国からインドに逃れてきた教員が、亡命政権下の小学校でチベット語での教育が出来なくなっているという話も聞く。
 そんな中国にとって最も鬱陶しいのがチベット人にとっての現人神であるダライ・ラマである。ダライ・ラマは暴動の中で中国軍に拉致され抹殺されるのを恐れたチベット民衆が自ら盾となってインドに逃した。ダライ・ラマは雪に覆われたヒマラヤの高峰を徒歩で越え、インドに亡命政府を樹立した。ダライ・ラマが日本に来た時にも中国政府は日本への入国を認めただけで抗議してきた。その時ダライ・ラマからは日本政府高官との面談要請があったが、日本は中国に気兼ねして誰も会おうとしない。一方中国は台湾の李登輝元総統が日本に来るだけでもビザ発給にクレームして来るほど強引である。日本は弱腰だから中国は益々嵩に掛って来る。しかし流石のアメリカはそんな中国の抗議をものともせず大統領が会談する。それに対して中国は激しい抗議を続け、報復措置をチラつかせて威嚇もする。
 米国と中国の間には、現在グーグルの検閲問題、台湾への武器売却問題がある。中国製タイヤに対するセーフガードを初めとする貿易摩擦もある。また中国の急速な軍備近代化と増強が東アジアに留まらず、アジア全域の脅威になりつつある。そんな中で中国は、今後の軋轢の行方次第では人民元の切り上げも避けられないと見ているのか、或いは逆に米国債金利上昇を狙っているのか、米国債を減らし始めているようで最近米国債保有高は日本が一番に返り咲いた。日本は米国債を沢山買った挙句に円の切り上げで円ベースでは大損を強いられた訳だが、中国はこの辺りも抜け目なくしたたかに振舞っているのかも知れないし、或いは持てる武器を駆使して米国を脅しているのかも知れない。
 日本と中国との間では東シナ会のガス田開発が問題になっている。本来東シナ海のガス田は共同開発するというのが筋なのだが、中国は言を左右しながら単独でどんどん開発を進めている。しかしリグが中国側にあったとしても、日本側に埋蔵されているガスも中国側から採掘出来るので、経済水域や国境を跨ぐガスや石油は両国が共同で開発しなければならないという国際ルールがある。ところがそんな国際ルールは無視し、日本の抗議には馬耳東風で中国は独自の開発を進めている。中国は日本の弱腰を見越してどんどん日本側からガスを抜く準備を進めている訳である。既に生産が始まっているかも知れない。折角自前の資源が見付かったのに、みすみすと他国に奪われても日本は手を拱いている。
 或いは日本にも領土問題がある。例えば、竹島問題などはさっさとハーグの国際裁判所に持ち込めば良いと思う。国際裁判所に持ち込めば100%日本の領土と認定されるらしいが、それを知っている韓国は国際裁判所に持ち込む事に反対して一方的に自国の領土だと主張している。のみならず、軍の施設まで勝手に建設して韓国の国旗を掲揚している。にも拘わらず日本は何ら具体的な行動を取らない。竹島などは李承晩が1952年に一方的に自国領域と宣言して引いた李承晩ラインの向こう側に入っていただけで、そこには何の根拠もない。それ以前は何百年も韓国も日本の領土と認めていた訳で、それを戦後のどさくさに紛れ敗戦国日本から強奪しただけの、僅か60年にも満たない歴史で自国領土と主張しているものである。
 こういう問題をきっちりと決着させるのが本来の外交である。言い換えれば、外交と言うものは結局は自国の利益を守るために他国と激しい交渉を重ねる訳である。そこには大国間の虚々実々の駆け引きもある。ダライ・ラマオバマ大統領が面談するのは米国の確固たる考えに則って実現されるもので、中国との軋轢を敢えて無視しても人権優先の自国の考えを貫き通す訳である。そんな中で日本だけは「友愛」などと場違いな綺麗事を吐いている。「友愛」に文句を言う国はあるまいが、友愛で外交が出来ると思っている国などある筈がないから皆内心は馬鹿にしてせせら笑っているであろう。そして領土問題でもガス田開発でも、我が国は一向に腰の据わった抗議はしない。こういう、国益に多大な損失が生じる問題にも断固とした対応が出来ないのが不思議である。
 懸案があるにも拘わらず小沢一郎が大ミッションを組んで訪中した時でも、胡錦濤国家主席に引き連れた国会議員全員に握手して貰う事には一生懸命でも、東シナ海のガス田開発については一言も言及しない。或いは中国訪問の後に面談した李明博韓国大統領にも、竹島には一言も触れず逆に在日外国人の参政権付与を約束している。日本の政治家は耳障りの良い事ばかりを言い、目の前でガスや領土が強奪されても臭いものには触りたがらない。日本の外交官僚は概ねそれぞれの勤めをしっかり果たしていると思うが、肝心の政治家が、特に民主党政権は、外交音痴ばかりで一向に本当の外交をせず、他方で「友愛」などという浮世離れした惹句に自ら酔いしれている。綺麗事ではなく、もっと自国の利益を擁護するしっかりした外交政策を立て、政治家が率先して外国に注文を付けなければ、日本の将来は本当に危ういと思う。