baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 トヨタのリコール

 トヨタの車の欠陥問題が米国を震源としてあちらこちらで大きくなっている。米国には、今やトヨタGMよりも大きな世界一の自動車会社であるから必ず金がある、上手く行けば何がしかを毟り取れるだろう、と訴訟を一人で何件も起こしている者がいるらしい。同様、今回のブレーキ欠陥のお陰でトラックに追突したと損害賠償を求めているユーザーもいるそうだ。だが、ブレーキ部品のちょっとした不具合で衝突まで引き起こすとは俄かには信じ難い。多少動きが硬くても、普通ならぶつかる前にもっと力を入れてブレーキを掛けるだろうに。しかも、錆で動きの鈍くなったペダルが短期間で突然事故を起こすほど急激に変化するとは到底考えられない。
 議会に日本の本社の社長を呼びつけての公聴会も、従来の同様な例に比べても極端で、極めて政治的な動きが垣間見える。背後に米国の衰退している自動車業界の存在がある事はもはや疑う余地はない。いや、消費者に正直に、外国政府や議会に従順になろうとしているトヨタの良心を逆手に取って更に窮地に陥れようとしている事は明々白々である。因みに昨年のリコール台数がトヨタとさして変わらないフォードは全く大きな問題になっていない。そして、得てして保護主義に傾きがちな民主党が政権を握っていること、更にはその民主党選出のオバマ大統領の人気が下落しており中間選挙に向けて建て直しを図らねばならない政権の事情、が一層トヨタに不利に働いている。新たにカローラの電動パワーステアリングにも不具合がある可能性がある、という米当局の曖昧な発表や、トヨタが不具合を隠蔽することにより1億ドル節約したという前後の脈絡を無視した内部文書の公表等々、消費者の反トヨタ感情を煽るトヨタ・バッシングが愈々強烈になってきた。
 米国は議会もメディアも、断片的な情報で世論をコントロールする事に長けているのは過去何度も目の当たりにしてきている。東芝機械が9軸の自動工作機械をソ連に輸出した時の日本品不買運動もそうであった。どう見ても知的レベルの低い一般の米国民は簡単に煽られて、ソニーJVCなどブランドには無頓着に、手当たり次第に日本品を山積みにして火をつけていた映像が思い出される。今回のトヨタ問題も、実情は米自動車産業のロビーイングによる政治的なアジテーションに振り回されているとしか思えないが、現実にトヨタ車の販売は急激に落ち込み中古車価格も下がっている上に、トヨタ車を下取りに出して米国車を買うなら更に値引きすると米自動車業界は追い討ちを掛けているそうだ。もっともこれは憶測に過ぎないが、トヨタ側にも豊田章男新社長を赤絨毯で迎えたいという思いが先行して、米国という特殊な市場での問題の対応に迅速さを欠いたという一面はあったかも知れない。
 トヨタ車も米国で製造されており、また問題の一部は米国産品の比率を上げるために敢えて米国製部品を使ったのが裏目に出てリコールになったものだが、いざリコールになればトヨタ車は米国製ではないと言われる。こういう時こそ日本政府も政治的に動いて火消しに徹するべきなのだが、日本政府が米国政府に圧力を掛けている形跡は全く無い。これが立場が逆で米国製品を日本国民がボイコットするような動きが少しでも出れば、米国通商代表部は猛烈な圧力を掛けて来よう。つい最近も米国の圧力で、日本車に比べて遥かにいい加減な基準で米国車に対してもエコカー認定を与える事になったばかりである。こちらが真っ当な議論をしている時は横槍を入れられて屈してしまうのだから、偶にはこちらからも横槍を入れて黙らせてはどうかと思うのだが、普天間基地移転の弱みもあるし、弱腰の日本政府には到底望むべくもないのかも知れない。孤軍奮闘のトヨタが気の毒である。願わくば日本車全般、更には日本製品全般に不信感が植え付けられなければ良いが。そして明日の公聴会での豊田社長の奮闘を祈りたい。
 つい最近も本ブログで余りにも馬鹿正直なリコールに疑問を投げ掛けたばかりなのだが、例えばどう考えてもトヨタの品質管理より劣ると思われる中国の国産車には殆どリコールがないそうだ。その中国でもここの処インターネットでトヨタ攻撃が強烈に飛び交っているという話を聞くと、益々その感を強くする。中にはトヨタのリコールと水で薄めたミルクにメラミンを混入させて蛋白質濃度を偽装した事件を同列に扱って、何れも利益優先の企業経営の結果と断じている新聞もあるそうだ。
 処変われば価値観も変わる。勿論日本式の正直経営は日本人の誇りであるし本来はそうあるべきなのでそれを改めろといは言い難いのだが、しかし幾ら日本的に正直に対応してもそれに付け込んで益々言い募る国が相手で、尚且つ民間の商売には口を出さない日本政府の後ろ盾では、そうそうお人好しばかりも言っていられないと思うのだ。米国のような国ではとにかく早目に禍根の芽を摘み、欧州や日本では程度に応じて冷静に対処する一方、中国では致命的な欠陥でない限りは沈黙を押し通す、という様な地域毎のユーザーのレベルや文化を吟味して対応に温度差をつけるべきではなかろうか。
 国内の製造業に対する民主政権による逆風が一層強まり、生き残りを賭けてこれから海外に製造設備を移転しようとする会社は否応なしに増えるであろうが、進出先の文化や風土、歴史を十分研究してその土地に馴染んだ経営をする事が如何に肝要かという好例として、今回のトヨタのリコール問題は注目に値する。