baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

アリスの東京ドーム公演 〜明日への賛歌〜

 古い友人二人に誘われてアリスの東京ドーム公演に行って来た。誘われなければ行かなかっただろう。1981年の後楽園公演を何度もカセットで聴いた記憶も背中を押した。こういうコンサートに行ったのは今日で我が人生、僅かに二度目である。東京ドームも今日が初めてであった。センターのバックスクリーンの手前にステージが作られ、観客はバックスタンドからレフトとライトのポールの少しフェアウェイ寄りまでぎっしりである。更にセカンドベースの少し後ろには第二ステージが作られていた。
 もともとアリスの歌は好きである。僕の数少ないカラオケのレパートリーにも何曲かアリスの歌がある。勿論好きでなければ行かないけれど。でもアリスはもう賞味期限切れの懐メログループだと少し過小評価していた。NHK御用達の、他ではお座敷の掛らない歌手だとばかり思っていたが、それはとんでもない認識不足であった。東京ドームに何と42千人も集めてしまった。僕の友人のオーケストラ指揮者が聞いたら腰を抜かすような数字である。結成40年のグループなので観客の大部分はアラフォーから上、半分位はアラカンであったろう。因みにアリスの三人は年齢合計が182歳、僕等三人組は189歳であったから年齢は僕等の圧勝であった。
 と年齢の事を書くのも、実は今日のアリスは最初から最後まで酷く年齢に拘っていたのだ。何かと言うと年齢の話であった。僕等の年代は、未だ若いという気負いと、老いたな、という思いが交錯する年代なので、そこに歳に対する拘りが自ずと出て来るのは良く分かる。同年代だから良く分かるのである。しかし、今日のコンサートは休憩時間を省いても実に4時間に垂んとする大熱演であった。アリスも僕に負けずまだまだタフである。
 フィールドには30mはあろうかというタワーが3基作られ、そこには照明設備と8連のスピーカーが吊るしてあった。ステージの直前には命綱をつけた照明係が何人か登って行く。初めてのこういうコンサートも東京フォーラムの一万人であったから、今日は一体どうなるのだろうと興味深々であった。ステージが始まったら、大音響である。ボディソニックがボスボス腹に響いてくる。尻がビリビリする。正直その大音響に、最初は場違いな所に踏み込んだと後悔した。そしてステージは遥かかなたで、人がいること位しか見えないのだ。だが流石に良く考えてあって、ステージの両脇には大スクリーンが設えてありアリスが良く見えるようになっている。要するにDVD画面を見ているようなもので、音もアフレコかライヴかも区別が付かない。
 僕の席からステージ迄は恐らく120〜130mはある。室温は20°を越えているから、音速では0.3秒位かかる。従いスクリーンの画は当然ずれているのだけれど、どういう訳か会場内のエコーが全く聞こえない。初めは少し白けていた事もあって色々推理した挙句の僕の結論は、フィールドに設えられたタワーのスピーカーは指向性の高いスピーカーで、且つステージからの距離分の時間差で音を出している。指向性が高いから他のスピーカーの音は聞こえて来ない。それでエコーが聞こえない。その推論を裏付けるように、フィールドから屋根まで観客を入れていないゾーンが幾つかあった。あのゾーンはスピーカーの音が重なる部分なのだと思われた。そして大音響で小さなエコーを消していたのである。だからソロバラードになると小さなエコーがどうしても聞えて来た。
 こんな舞台だから、最初は何の為のライヴかと思った。ところが、最初は少し押しつけがましかった観客への拍手やコーラスの要求も、だんだん打ち解けて来ると一体感を醸成して来る。ムード作りに長けている。段々アリスのペースになってきて、特に終盤は歌唱力と観客を引き込む演出で、圧巻の舞台であった。僕の隣に座った赤の他人のアラカン女性などは埋没してしまって大声で唱和するものだから僕は片耳がガンガンして頭が痛くなる程であった。
 終演までいたら何時出られるか分からないと、僕等は1〜2曲早めに出た。同年代のパワーを感じ、その歌唱力に圧倒されて出て来た外には、折からの満月が手が届きそうなほど近くに上っていた。