baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 東南アジアの貧富の実態

 今日は、金持ちの華僑系インドネシア人の夫婦の話を想い出したので、忘れぬうちに書いておこうと思う。東南アジアでの臓器移植の実話である。
 ご主人の方は僕が仕事の関係で極く親しくしていた人で、裸一貫からの叩き上げである。家は貧しく、高校を出て直ぐにカリマンタンの田舎からジャカルタに出てきて自動車修理工場の工員になり、人一倍働いて小銭を溜めた。そのお金を元手に、最初は中国製の中古機械1台で繊維の仕事を初め、その後アイディア一つで次々と事業を起こしては成功させて行った。そして、財閥とは言わないまでも其々インドネシアでは有数の企業のグループ・オーナーになった。インドネシアン・ドリームを遂げた人である。とにかく働き者で、偶の遊びと言えば負けの限度を自分で厳しく守る博打と釣りぐらい、普段は仕事が趣味のような人であった。
 この人が57才の時に突然体調を崩した。普段は煙草は吸っていたが大酒を飲むでもなく、毎朝運動をして体調管理には気を付けていたので、周囲はもとより当人も吃驚したようだ。余りにも不調が長引くので、と言っても一ヶ月位だが、医者に診て貰ったら肝臓に腫瘍があると言う。インドネシアの医者は当てにならないので、日本の大学病院を紹介して直ぐに検査入院をさせた。ところが結果は肝臓の末期癌でもう手がつけられない、唯一の可能性は移植だが、順番待ちの期間は保たない、残念ですが、とのご宣託であった。
 家族はそれこそ根耳に水で、ついこの間までピンピンしていたのだから俄かには信じられない。偶々娘の嫁ぎ先がタイの金持ちだったので、そちらの家に相談した処タイでなら肝臓が見付かるかも知れないとの話だったそうで、もうかなり衰弱していたのだが日本から直ぐにタイへ移送した。インドネシアでは未だ移植治療は難しいのである。
 一週間もしないうちに肝臓が見付かり、移植手術をしたのだが残念ながら手術は不成功に終わり、翌早朝に亡くなってしまった。ジャカルタにいた僕は日本を発って以降の事は知らなかったのだが、彼がある日の夜中に僕の夢枕に立ったので亡くなった事を直感した。それから2時間後位の早朝に電話が鳴り、訃報を知らされた。
 後から聞いた話では、タイで精神異常の若者の家族から肝臓を買ったそうである。家族は持て余していた若者がお金に変わるという事で、二つ返事で同意したという事だったが、実際は相当のお金で釣ったのではないかと想像する。恐らく当人は細かい事は聞かされていなかったろうが、正義感の強い人で気も合ったので、後味の悪い話を聞いてしまった。
 その夫人がご亭主を亡くした数年後から腎臓を悪くして、透析を始める事になった。暫くは透析を続けていたが、ついに透析では間に合わなくなって腎臓移植が必要になったそうだ。日本などでは普通は腎臓移植なら家族が提供するのだと思うが、家族は自分の腎臓を取るのが厭だったのだろう、グループ内の従業員からドナーを募り、若い女性工員にお金を渡して腎臓を一つ提供させた。200万円程度の金額だったと聞いた。女性工員にしてみれば田舎に帰れば立派な一戸建が買えて未だお釣りが充分に来る金額である。腎臓の摘出と移植はシンガポールで行い、こちらは無事に成功して今は夫人も元気にされている。こちらはドナーが死んだ訳ではないので、まぁそれだけの話だが、臓器の売買は一般には厳しく禁じられている倫理違反である。ともあれ、地獄の沙汰も金次第を地で行く東南アジアの貧富の激しさと金持ちのドライ振りである。