baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 インドネシアのバイク事情

 インドネシアでは現在バイクが飛ぶように売れているそうだ。今年は年間700万台売れそうだとも言われている。シェア1位はホンダで、合弁パートナーも強い処なので、圧倒的に強い。面白いのは、そのホンダのバイクの合弁先は自動車ではトヨタのパートナーとなっており、自動車はトヨタがシェア1位である。ホンダの自動車の合弁相手は別の企業であり、自動車ではシェア2位とトヨタを追っている。ここにも捩れ現象が起きている。
 そのバイクのホンダを急追しているのがヤマハである。少し間があって3位がスズキ、それから更に相当離されてカワサキが続く。我が愛するカワサキは合弁相手もいま一つで、苦戦している。昨今は台湾や中国も入って来ている。中国品は一時安値で相当数入った時期もあったが、故障が多く品質が伴わないことが間もなく分かってしまい、中古価格が非常に安くなるために最近は人気がない。結局は日本ブランドが圧倒的な強さを維持している。
 インドネシアではバイクは正に市民の足である。公共交通機関の整備が遅れているので、畢竟バイクに人気が集まる。従い良く話題になる、東南アジア特有の家族が揃って一台のバイクに乗る姿はインドネシアでも普通である。極端な例では両親と子供3人の5人乗りなどというのもあり、4人乗りはそれ程珍しいものではない。上の子はお父さんの腕の中でタンクに座りハンドルを掴み、下の子はお母さんの腕の中でお父さんの背中とお母さんのお腹に挟まれている。
 バイクタクシーもある。オジェックと呼ばれ、大体決まった場所に屯ろしている。汚いスペアのヘルメットを持っており、お客は交渉が成立すればそのヘルメットを被って後ろに乗る。オジェックは値段さえ折り合いがつけば、何処へでも行ってくれるが、その運転は粗暴な者が多くかなりのリスクを覚悟しないと乗れない。従い、オジェックは運転手もお客も下層階級の人が多いと言える。もっとも見た目ほど事故が多い訳でもないが、その運転振りはまるで特攻隊である。僕にはオジェックと一般のバイクの見分けがつかないが、オジェックには特に免許もないので俄かオジェックもあるようで、素人に区別が付かないのは致し方ないのである。
 彼の地のバイクの主流は、スーパーカブタイプの110-120ccである。150ccになると立派なオートバイタイプとなるが、大部分はスーパーカブタイプであり、概して運転は乱暴である。隙間があれば何処へでも突っ込んでくる。ヘルメットを被っていないと警察に捕まるのでヘルメットは皆被っているが、見るからに粗悪品が多い。日本でもディスカウントショップへ行けば3,000円ぐらいのヘルメットを売っているが、あのレベルのものか、場合によってはもっと粗悪なものであろう。そして免許を取るのが簡単なので、およそオートバイに乗る感覚ではなく、バイクが小さいこともあり自転車感覚である。スーパーカブタイプにはクラッチも無ければニーグリップも出来ないから、自然と自転車感覚になってしまうのであろうが、サンダル履きや半袖半ズボンなども当たり前で、日本の原チャリに乗っている不用意な若者スタイルに似ている。そんな事から当然といえば当然なのだが、高速道路では二輪車の走行は禁止されている。
 それでは大型バイクはどうであろうか。15年程前までは大型バイクは正式には輸入できなかった。だからそれ以前に街を走っている大型バイクは、ほぼ100%ハーレーばかりであったが、全て密輸品であった。密輸品が堂々と街を走れるのが如何にもインドネシアなのだが、毎年払う税金やナンバープレートを延長させる為の裏金が法外に高いので、一般人には高嶺の花であった。法外の乗り物に対しては法外の費用が課せられるのは当然と言えば当然である。その後、15年程前から、輸入関税は非常に高いが正規に輸入出来るようになった。早速ドゥカティアプリリアの代理店などが出来、今ではBMWKTMなども売られているが、やはりハーレーの人気が圧倒的である。インドネシアの道路事情ではそれ程スピードは出せないし、大型と言えども高速道路は走れないのでハーレーでも特に痛痒はないのであろう。
 或る時カワサキZZR1100を展示用に輸入して、そのまま在庫していたのを聞きつけ、見せて貰いに行った事がある。もともと僕がバイク狂いになったのは、このZZR1100に一目惚れしたからなのであるが、それまで未だ実物を見たことはなかった。先方は初対面ながらも僕の肩書きに敬意を表して、試乗までさせてくれた。厚かましくもカワサキの工場内を一周させて貰ったのだが、今思うと随分無鉄砲な事をしたものである。コカさなくて本当に良かったのだが、当時はそんな心配はまるでしなかったものと思える。そして、どうしてもこの保税扱いのバイクを密輸入したくなって、あちらこちらを奔走したものである。結論は手に入れる事は可能だが、とても僕の財布では維持出来ないと言う事であった。カワサキの駐在員には厚くお礼を申し上げて、泣く泣く諦めた。
 そんな金食い虫の大型バイクだったのだが、インドネシア3代目の大統領となったハビビの自宅を訪ねた際に、ガレージにカバーを掛けたハーレーとBMWの大型バイクが6-7台、無造作に置かれていたのを見かけた。ハビビは実際バイクに乗るのが趣味で、大統領になってからもバンドンに行くのに愛車のバイクで行くと言ってきかず、警備の人間が右往左往した事があったと聞く。今でもハーレークラブには軍人が多い。インドネシアでは軍人であることが一つの特権であった時代があり、今でもその名残が残っているのである。そして、ハーレーを乗り回すのは特権階級の一種のプレスティージなのである。
 僕は或る時休暇でバリにいて、ハーレーをレンタルして乗り回していた。すると突然ジャカルタの支店から電話が入り、某大臣がバリに行ったので是非今晩食事を一緒にして頼みごとをしてくれとの依頼が来た。僕は仕方が無く休暇返上で一晩仕事をする事になったが、夕食の場までハーレーで乗りつけた。大臣は軍人上がりだったこともあり、僕の格好を見て大喜びで、話が大いに盛り上がったのであった。