baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 新安保懇報告書

 鳩山由紀夫が首相になってから、「防衛大綱」の作成を一年遅らせてでも自民党以来の防衛大綱を踏襲するのは潔しとしないとして、新たに組織した政府の有識者懇談会「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」が報告書を纏め昨日菅直人に提出したそうである。この懇談会のメンバーは当時の平野官房長官が中心になって纏めた、民主党の人選である。鳩山由紀夫としては持論である「友愛」をキーワードにした「東アジア共同体」に見合う報告を期待していたのであろう。
 しかし、報告内容は鳩山由紀夫の思惑は外れた結果になっている。違う言い方をすれば、日本の安全保障に軸足を置いて現実的に議論を重ねれば、自民党民主党という党派を離れて、向かう処は共通して来ると言う事であろう。防衛という、国家のエゴの究極の部分に関わる提言であればむしろ当然と言える。しかし、残念ながら肝心の菅直人には余り興味がないようで、積極的な反応はなかったそうだ。目下は代表選でそれどころではないのであろうが、同時に学生時代は「反安保闘争」に入れ込んだ人物であるから、あまり現実的な提言には抵抗があるのか、はたまた在沖縄海兵隊の抑止力を10ヶ月にも亘って認識出来なかった鳩山由紀夫同様、防衛の何たるかが未だ分かっていない総理なのか、何とも心許ない事である。
 報告書では、従来の受動的な平和国家を目指すことから創造的な平和国家へ変貌することを基本に据え、従来の必要最小限の防衛力整備に基づく静的抑止から、常時警戒監視や領空・領海侵犯対処などを適切に運用できる、高い部隊運用能力を保持する動的抑止を目指すべきとしている。戦後の安保体制は、軍事能力が極めて低い周辺国に囲まれた日本の防衛を、米国の傘の下で行う事が目的であった。また、戦後間もなくであり、周辺国に刺激を与えない程度の装備に抑えておくのが適当であった。従い従来の自衛隊専守防衛という名の下に、受動的な防衛力、即ち限られた部隊と装備に限定されて来た。しかし昨今のように中国が急激に軍備の近代化と増強を急いでおり、海南島には潜水艦基地を作り、2014年には航空母艦を就航させて日本のシーレーンを脅かそうとしている現実下では、従来の安全保障構想ではもはや日本の安全は担保できなくなっている。更には北鮮のように、軍事力はともかくテポドンの如き攻撃兵器を開発し、更には核開発も行っているテロ国家が日本をその射程内に納めているという現実も無視できない。また、9・11のような新たな形態のテロ攻撃に対する安全保障も考慮しなくてはならない。
 中国が日本固有の領土である尖閣諸島や沖の鳥島を日本から剥奪する事を狙っている可能性が十分にあるという事にも注意しなければならない。中国の昨今の急激な軍備の増強の狙いが何処にあるのか定かではないが、既に第五世代の戦闘機SU-33を保有し、海南島に潜水艦を配備し、航空母艦の建造にまで着手するとなれば、やはり領土拡大の野心、或いは日本のシーレーンをその制海権の下に置いて常に日本に、ひいては米国や韓国に圧力を掛ける事を狙っていると考えて置くべきである。因みに日本の空自の主力戦闘機F15は第四世代であり、日本の次期主力戦闘機の導入予定は未定のままである。また、日本のシーレーンを防衛しようとするならば、現在よりも遥かに足の長い部隊の運用が求められる。
 高い部隊運用能力を持つ為には装備の開発力向上も必要な訳で、その為には海外との共同開発なども視野に入れて武器輸出三原則の見直しにも触れている。どの辺りに線を引くかと言う議論はこれから更に積み上げる必要があるが、基本的には現在の武器禁輸は相当経済活動の足を引っ張っている。というのは、昨今のIT化の進歩で、凡そ一般人には想像もつかない機器も武器転用が可能になってしまうからである。また武器そのものも、自衛隊の調達分しか作れないからコストが非常に高くなってしまう。武器を製造しながら輸出していないのは恐らく世界でも日本だけだと思うが、高い理念は結構だがその為に自国防衛の為に物凄く割高な調達を強いられている訳で、端的に言えば税金の無駄遣いなのである。とは言え僕は無条件に武器輸出を認めるべきだとは思っていない。例えば、内戦国や紛争当時国に徒に武器を輸出するのは如何なものかと思う。増してや海賊やテロリストに横流しされるかも知れない輸出など論外である。しかし、何が何でもダメという物でもないと思っている。要は条件次第である。
 その他、集団的自衛権の見直しや、非核三原則の見直しも提言している。現在のように有事には、限定的な地域ではなく地球規模での攻撃もあり得ることから、集団的自衛権の行使を禁じるのは全く現実的ではなくなっている。例えば北鮮や中国から米国向けに発射されたミサイルが日本上空を通過しても日本が目標でない限りは撃墜してはいけないだとか、台湾有事に出撃する第七艦隊が日本近海で中国に攻撃されても自衛隊は援護出来ない、などという規制は実に馬鹿げている。非核三原則についても、日本への持ち込みについては見直しを提言している。これも現実的な提言である。核兵器は無いに越した事はないが、現実にはあちらこちらで開発され、多数の国が保有している。従い綺麗事ばかり言っていても仕方が無く、日本も米国の核の傘の下で、核の抑止力の恩恵に否が応でも与らざるを得ない。そうでありながら核の日本への持ち込みは罷りならぬ、と言うのは自己矛盾を起こしている。
 同様、自国の防衛のみならずPKOなどグローバルな国際平和協力業務でもより広範囲な任務が遂行できるように、恒久的な国際平和協力活動に関わる基本法の整備を提言している。当然の事であろう。昨年の海自のインド洋派遣のように、特別立法での派遣では、延長するのかしないのか、参院多数の野党、民主党に反対の為の反対をされて、衆院で再可決するまでに一旦時間切れになるという国際的醜態は、もう繰り返してはならない。世界の笑い者にはなって欲しくない。
 何れにしても、理想家の鳩山由紀夫や元反安保闘士の菅直人には耳障りかも知れないが、極めて現実的な報告書が出たと思う。日本の安全保障は単に一政党に関わる問題ではないのだから、政党間の下劣な党利党略に拘る事無く、増してやチンピラの縄張り争いみたいな代表選などに現をぬかす事無く、日本の将来を見据えた真摯な議論を重ねて欲しいものである。今回の懇談会は民主党主導ではあるが、その報告書は超党派論議出来る内容であると僕は思うので、この報告書を踏まえて政党を横断した超党派議論を重ねて、世界の平和に能動的に貢献できる新しい自衛隊像を描いて欲しいものである。しかし残念ながら、昨今の菅直人の口をついて出て来る言葉は何れも従来の政策を踏襲する内容ばかりで、到底今回の報告書を検討する余地は見当たらない様である。菅直人の頭の中はどうなっているのか、己の権力にしか興味がないのであれば小沢一郎とは同じ穴の狢である。
 丁度一年前に、僕の自衛隊に対する思いを本ブログに書いた。今回の報告書は僕の思いと同一線上にある。折角の報告書であるから、この機会に自衛隊の役割を現実に即して明確にし、正々堂々と海外派遣出来るようにすると同時に隊員の安全にも配慮し、そして何よりも日本の安全と国益をしっかりと護る為に、憲法改正をも視野に入れた国民的な議論を高めたいものである。