baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 飽食に過ぎる日本

 大西洋まぐろ類保存国際委員会がパリで開かれている。大西洋のクロマグロの漁獲制限を初めとして、地中海を含めた大西洋全域での資源枯渇が心配される魚類の漁獲制限を話し合う場である。マグロで言えば、モナコを筆頭にマグロ乱獲に警鐘を鳴らすEU諸国と、フランスやイタリアのようなマグロ漁業者を保護したい国がぶつかり合う。しかし何れにしても、マグロの最大の消費国である日本が議論の末に常に槍玉に挙がるのは致し方ない。
 それで常々思う事がある。マグロに限らず、鰻でも同じなのだが、日本人のマグロや鰻の消費が少し常軌を逸してはいまいか。未だ日本が貧しかった僕が子供の頃でもマグロの刺身は家庭でも偶には食べられたが、やはり高級なご馳走であった。そうそう目にできる食材ではなく、普段は鮨屋で食べるものであった。そして普段の家庭の食卓では、鯵や鯖、イワシ、サンマ、当時はまだ安かったサケ、ニシン、トビウオ、等々が旬に合わせて並んでいたように思う。それが今ではスーパーの安売りに一年中マグロが並んでいる。殆どが輸入品で、それも遠くインド洋や大西洋から送られて来る。
 鰻も同様である。すでにシラスウナギは乱獲の結果不漁になっている。その少ないシラスウナギを台湾、中国の沿岸で日本に辿りつく前に捕まえてしまうので、今や日本の沿岸では殆どシラスウナギは獲れなくなっている。それなのに日本産の養殖ウナギが未だ出回っているのが不思議であったが、最近聞いた話では日本で10日も養殖すれば日本産のラベルを貼れるそうである。鰻もマグロ同様、というかマグロ以上に、昔は普通に家庭で食べられる食材ではなかった。大変なご馳走だったので、たまに親が大奮発して仕出しの鰻丼か、時には鰻重を奢ってくれた程度のものである。それが昨今は加工技術と包装技術の発達で、スー-パーで、蒲焼の安売り合戦である。それも殆どが中国か台湾産である。
 こういう昨今の現象を目の当たりにして、そこまでして世界中の資源を食い荒らす事はあるまいと思うのである。マグロは世界の漁獲量の8割は日本で消費されていると聞く。鰻はヨーロッパの鰻は種類が違うので恐らく日本には殆ど入っていないと思われるが、ジャポニカと呼ばれる日本鰻は勿論のこと、種類は違うが比較的ジャポニカに近いインド洋産の鰻も過半が日本で消費されていると聞く。鰻も資源の枯渇が危惧されている。最近になりやっと少しその生態が解明され、人工孵化にも成功したというニュースはある。しかし鰻は色々な条件が整って初めて排卵する極めて特殊な魚であり、人工孵化はまだまだ難しい筈である。養殖技術が完成するまでには未だ相当の年数、恐らく十年単位の期間を必要とするであろう。
 日本には必ず需要があるので、海外ではマグロやシラスウナギの乱獲、密猟が後を絶たない。この悪循環を断ち切る為には、以前にも書いたが輸入を締めるしかないと思う。ここで言う輸入とは、税関を通る魚は元より、日本の経済水域外で捕獲された魚、或いは外国籍の漁船により獲られた魚を水揚げする事も含めたい。輸入を割当制にして徹底的に輸入量を抑えてしまえば、世界中が大騒ぎをしなくても漁獲高は自ずと抑制され、密猟はなくなり、世の中丸く収まると思う。しかも長い目で見れば日本近海の資源も復活する筈である。そうなればそれこそ、大間や銚子や三崎で水揚げされた本マグロとか、多少高価かも知れないが正真正銘の日本鰻が食べられるようにもなる。日本人も昔はそんなに頻繁に食べていた食材ではないから、スーパーの安売りから姿を消せば遠からず馴れてしまうと思う。バブルも弾けて景気も決して明るくないし、生物多様性保護の観点からも、バブル期に馴れてしまった欲しい物を飽食する悪弊とはそろそろ訣別する時期であろう。