baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 オランダ・フランドル絵画展

 今日は健康診断の再検査があった。年一度の半日ドックで、甲状腺に腫瘍の疑いがあると言われた。福島第一原発の事故なら未だ腫瘍には早いし、子供ではあるまいから多分医者が二日酔いだったのだと思うのだが、だからと言って無視できるほど自信がある訳でもない。やはり従容として診断を受けに出掛けた。血液採取は先月、再検査を宣告された時にもうやっているので、今日はエコー検査だけである。エコーだけだから、妊娠の診断みたいなもので簡単至極であった。結果は来週末まで待たされる。検査が終わってから、渋谷の文化村でやっている「オランダ・フランドル絵画展」に寄った。考えたら半日ドックの日にも、低血糖になりながら「ボストン美術館 浮世絵名品展」を観に行ったのだった。僕は病院に行くと展覧会に行きたくなる性分らしい。
 会場は凄く混んでいた。大部分の来場者のお目当てはフェルメールの《地理学者》である事は間違いない。フェルメールの絵はこの一枚だけなのだが、この絵が展示してある部屋だけは大変な混雑であった。近年急にファンの増えた趣のあるフェルメールだが、確かに光と陰影の使い方は卓抜していると思う。そして、絵は背景の細かい処まで繊細に描かれている。例えば地理学者の着ている物は日本風の着物かどてらの風情である。17世紀の当時は、日本の着物ファッションが上流階級のシンボルであったそうだ。壁際の地球儀や手前のゴブラン織りの模様まで、極めて緻密に描き込んである。
 絵はそれとして、《地理学者》の小道具として天球儀や古地図が展示してあった。大いに面白かったのは、17世紀末のオランダの世界地図である。5枚組の中の、アジアの部分の一枚が展示されていた。所蔵は神戸市立博物館であるから、日本の所有物であり何時でも見られるものであろう。この地図では日本は未だ相当不正確で、特に「Yezo(蝦夷)」は海側から観測しただけの様で、根室北方四島の辺りが少し書いてあるだけであった。伊豆半島なども未だ不正確で、これだけ見れば伊豆半島は未だ日本列島には衝突しておらづ、太平洋を漂っている風情である。
 それが、流石に東インド会社を擁したオランダの地図だけあって、植民していたインドネシアの地形は相当正確である。赤道は既に現在の赤道の位置そのまま、スマトラからボルネオにかけて正確に引いてある。陸地はスマトラ、ジャワ、ボルネオ、スラウェシ、等の主な島嶼は既にしっかり、大きさもほぼ正確に書いてある。バリ島やロンボック島もゴチョゴチョと書き込んである。パプア・ニューギニアは「Nuova Papos Guinea」と地図の右端に記載されているし、チモールも場所はちょっと南に寄り過ぎていたがしっかり記載してある。日本では伊能忠敬が初めて日本地図をつくったのがやっと19世紀初頭になってからであるから、やはり欧州の自然科学は大分先を行っていたのは間違いない。
 展示してある絵と言えば、ドイツはフランクフルトのシュテーデル美術館所蔵の17世紀から18世紀にかけてのフランネルの絵画である。光を巧みに扱う事が主流の絵であるから、レンブラントに象徴される様に全体の色調は暗い。中には多少明るい色調の風景画なども見られたが、やはり全体の印象は暗い。若い頃の僕はこういう絵が好きであったが、最近はもう少し明るいロマン派の絵が好みになっている。