baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 世界に顔向け出来ない醜聞 〜 「福島の海水注入中断はなかった」

 東電福島第一原発一号炉の海水注入が55分間中断されたという「事件」で、官邸からの指示だ、いや原子力安全委員長の提言があったからだ、と二転三転の挙句に、結局は東電の自主判断だとして責任を逃れていた菅政権であったが、実際は現場の独断で中断はなかったと東電が発表した。
 菅直人はサミット出席のためフランスにいるが、この発表を受けて枝野幸男が「事実を報告して貰わなければ困る」と東電に苦言を呈している。そうでも言わなければ政権として格好が付かないから言わざるを得ずに言っているのは明白だが、枝野幸男菅直人を支える為に嘘を並べ立てて来ているから、最近は国会答弁でも筋の通らない強弁ばかりなので、こんな抗議をしても何とも空虚に聞える。そもそも本当の事を報告させなかったのは自分達に責任がある事を改めて肝に銘じるべきである。上がバカで現場の邪魔をするような事ばかりを言っていれば、現場は緊急時には上を無視しないと肝心の仕事が出来なくなるのは世の常である。緊急時には、上が無能であればある程、現場は独断専行せざるを得ず、結果は抗命であるから報告も上がらなくなる。無能なリーダーが率いる組織には、あってはならない事ながら現実にはしばしば起こる事である。
 政府が事態をしっかりコントロール出来ていれば、報告もせずに現場の判断だけでこんなに重要な事が決定される事はあり得ない。政府の判断が素人判断と政治パーフォーマンス優先で、理屈に合わない事や現場の状況を無視した指示を濫発して右往左往するから、現場の責任者としては辞表を呑んで独自の判断をしたものであろう。現場で自衛隊員や消防隊員、そして自分の部下がそれこそ命懸けで懸命な作業を続けているのを目の当たりにすれば、離れた大本営から「ああだ、こうだ」と混乱を極めた指示や質問が飛んできた挙句に「中断」などという命令が来ても、もう一々相手に出来なかったのであろう。
 菅政権の危機管理が余りにもお粗末であるとこの問題について数日前に書いたばかりだが、ますます僕の想像が裏付けされる事実が出て来た訳である。東電としては、これからIAEAの査察が入るのに、事実を曲げて報告するのは得策ではないと言う判断で事実を公表したと言う。今日になって突然分かった事とも思えないから、事実を公表するタイミングを探っていたものと見える。
 ここから先は僕の想像でしかないが、海水注入中断は間違いなく、「切れ菅」の再臨界という言葉に過剰反応した挙句の早計な判断で指示されたものである。激昂した最大の権力者に、誰もストップが掛けられなかったものと思われる。今まで公表された事実から犯人捜しをすれば、誰がどう考えても他にこんな命令を出せる人間は見当たらない。東電は政府に梯子を外されれば今後の補償問題や資金繰りに見通しが立たないから、その官僚体質からも今のところ政府には中々逆らえない。原子力安全委員会も結局は政権内部の組織だから、政府の長がそういう指示を出せば組織としては従わざるを得ない。
 つまり総理大臣が「止めろ」と言ってしまえば、その経緯はともかく国家の一大事に当たっては誰もその命令を止められない。またそうでなければ急場の対応にならないから、総理大臣の結断が簡単に引っ繰り返らないのは当然である。ただ、その総理大臣が生半可でオッチョコチョイ、しかも激昂するタイプだから、周囲が諫言できない。その上、泥を被って腹を括る豪傑も東電幹部も含めて大本営には一人もいないので、結局発電所長などという現場の責任者が腹を括る破目になる。この独断は、それこそ首でも括る覚悟をしておかなければ出来ない判断であったろう。そんな重い判断を一現場責任者に押し付ける政権の危機管理である。
 結局、今回の一連の動きからは、大本営が常に混乱の極みで、その判断がおよそ納得の行く冷静なものからは程遠く政治パーフォーマンス優先、或いは感情的な判断で常に大きく振れていた事は容易に想像できる。枝野幹事長以下も政権延命しか頭になく、菅直人を庇うのに必死で物事の本質を見失っているから、本来の職務を完全に忘れているものである。その結果は原子力安全委員長が示唆しているように、凡そ理屈とは正反対の指示が出され、誰もそれを止められず、腹を括って無視する人物もいなかった。挙句は決死隊が高放射能の中で作業を続けている現場の長が、見るに見かねて腹を括り、無体な命令を無視した事は容易に想像できる。でなければ、誰もそんなリスクを冒そうとは思うまい。余程の、思い余っての決断であったのであろう。とは言え、国家の一大事に当たってトップの決断が末端に届かないと言う、由々しき事態が発生していたと言う事である。
 如何に菅政権が危機に当たってマイナスに動くかが如実に証明されてしまった、世界に顔向けの出来ない日本の醜聞である。