baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 再生エネルギー特別措置法案

 ジャカルタにいても、菅直人の常軌を逸した権力の座への異常な執念が伝わって来る。政権幹部からも一様に見放され、突き放されても、尚恋々と地位にしがみついているその精神力は最早正常なものとは思えない。そして、看板政策も演説の度に変わるから、何れも思い付きの域を出ずにこの一年以上に亘って日本を引っ張って来た訳である。
 昨年の参院選の時に突然言い出した消費税の引き上げにも、今は政権延命の役には立たないから全く興味が失せてしまったらしい。昨日の社会保障と税の一体改革案でも政府と与党の意見の折り合いがつかないのに、菅直人はまるで他人事のように自ら調整を図る事はしなかったようである。鳴り物入りで移籍して来た与謝野馨も、梯子を外されてしまった。野田佳彦と二人、孤軍奮闘であったようだ。
 今は、クリーンエネルギーを電力会社に強制的に買い取らせる「再生エネルギー特別措置法案」の成立を、全く脈絡もなく自身の辞任の条件にしている。前から自民党などでも議論されているアイディアで特段目新しいものではないが、今回は与党も政府も何も聞かされていない段階で突然菅直人が言い出したものだそうだ。福島第一原発の事故の後では時宜を得た法案で、国民の支持を得やすいと考えたものであろう。余談だが、浜岡原発の停止要請は元々担当大臣の海江田万里が発表する事になっていた物を、発表の直前になって唐突に菅直人が自分が発表すると言い出したそうだ。そんな付け焼刃だから、説明が中途半端で他の原発との違いが国民には納得出来ずに、未だに尾を引いている。逆に、浜岡以外の原発については安全性が確認されたから運転再開して欲しいと言う最近の政府要請は、実は総理自らが発表する事になっていたのに、逆に発表寸前に海江田万里に投げて菅直人は逃げたそうである。この男は何事も国民受けを狙った自分のパーフォーマンスに利用するだけしか考えていない、信念の欠片も無い男なのである。玄海原発の稼働再開について海江田万里と面談して原則は了解したとする佐賀県の古川知事が、菅直人がこの問題では明確な姿勢を示していないと、直接菅直人の考えも確かめたいと言ったそうだが、これは菅直人日和見的な狡猾さに対する痛烈な皮肉である。
 話は戻るが、再生エネルギー特措法案は良く考えないといけない法案である。クリーンエネルギーを推進しなければいけないのは論を待たない。しかし、クリーンエネルギ―を作れば損しない値段で作っただけ買って貰えるのであれば、事業としてはリスクが殆ど無いから投資する側から見ればこんな安直な話は無い。しかも、太陽光発電にしても風力発電にしても、相手が自然であるから発電量は天候に左右され酷く気紛れとなる。必要な時に必要な量の電力が供給できないと言う事もしばしば起こり得る。しかし、それでも構わない。とにかく作った分だけ全量高く買って貰えると言うのである。買い取り価格は凡そ現在の電力料金の2倍となるらしい。
 買う側から見ると、随分と虫の良い事を押し付けられる事になる。クリーンエネルギーが出て来ない時にも電力が不足しないように、設備だけは整えておかなければならない。しかし、クリーンエネルギーが出てきたらそちらを買わなければならないから、自分の設備は操業を落としても外から電気を買う。電力供給という責任だけは持たされて、自分の設備はフルには使えない、電力会社から見れば随分と経営効率の悪い話である。しかし、高く買ったものはまた高く売っても良い事になっているから、最後は電力消費者が高い電気を買わされる事になる。企業も家庭も電気を使わない処はないから、国民が全員でこの高いエネルギー代金を負担する事になる。
 もちろんクリーンなエネルギーを今後増やして行く為に国民が一定の負担をしなければならないのは、ある程度は已むを得ないと思う。それが絶対に悪いとは言わない。ただ、程度問題である。程度問題と言うのは、既に日本の電気料金は非常に高い。特に素材産業では電気料金がコストに反映する比率が非常に大きい場合があるので、高い電気料金は日本が外国に対してコスト競争力が弱い大きな原因になっている。その電気料金が更に大幅にアップする事になれば、日本の国内産業の空洞化に拍車が掛る事は間違いない。
 さらに問題は誰がクリーンエネルギーに投資するのか、と言う問題である。なんとなく、家庭でソーラーパネルを設置したら、発電した分は全量買い取って貰える、それは良い、という短絡的な発想になりかねない。現に菅直人は日本の家庭1000万戸にソーラーパネルを設置するという目標をぶち上げた。何の根拠もない数字である。しかし、実際には集合住宅に住む人には殆ど関係の無い話である。戸建住宅でも、地方の広い敷地のある家ならまだしも、都会の日当たりの悪いビルの谷間の小さな家ではあまり現実的ではない。一方で地域の電力需要とは無関係に、地方の広い敷地にソーラーパネルを設置すれば、これはリスクの非常に少ない安定した投資となる。ただ、電力は移送するとロスが大きいから効率は悪いのだが、発電事業者にしてみたら作ったら高く買って貰えるのだからそんな心配をする必要は少しもない。そして高い電気料金のツケは消費者に回って来る。
 僕は頭からこの法案が悪いとは思わない。こういう仕組みを早く作り、少しづつでもクリーンエネルギーを増やす努力は必要だと思う。日本は立地条件が悪く、余りクリーンエネルギーには向いていないと言う事は以前にも書いたが、だからと言って何もしなくて良いとは思わない。しかし、政権の延命の為に拙速に作る法律ではないのは間違いない。電気料金と消費税がダブルで上がれば、国民生活への影響は小さくは無い。経済に与える影響は甚大である。しかも冷静に考えれば、この法案の恩恵に与れる投資家は意外に限られていて、この法律によって儲かる人はそれ程多くは無いように思われる。
 やはり全体として電力供給の効率を上げるような、例えばスマートグリッドと組み合わせるとか、買い取り価格も一律ではなく周辺の条件によって肌理細かく算出するとか、もっと細部にも気配りする必要があるのではないかと思う。一部の人の安直な投資を国民全員が支えるような事になれば、折角の法律も悪法になってしまう。そもそも法案の目的が政権延命などという本末転倒な話であれば、この法案の審議は政権が変わってからとすべきなのである。