baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 日本のビザ

 インドネシアから友人が来日している。毎年来ている親日家である。日本食大好き人間で、寿司でもさんまでもおでんでも、およそ豚以外なら何でも食べる。温泉も大好きで、平気で大浴場に浸かるのは少し変わっている。特別な金持ちではないが、年に一度日本に来る位だから決して貧乏ではない。
 その友人が日本に来るビザを取るのが、毎年結構大変なのである。先ず往復の予約が取れている航空券を既に購入している事が大前提で、次に預金通帳を調べられ、日本に滞在するのに十分な現金を持っているかどうかが調べられる。日本円にして数十万円の預金がないとビザが下りない。そして日本に滞在中の毎日の行動予定と宿泊先を提出させられる。友人は適当に富士五湖や箱根、日光などに観光し、銀座でショッピングをする予定を12日分作って提出したそうだが、そうしたらビザは15日しか下りなかったそうである。
 観光産業を振興しようと国を挙げて色々と外国人観光客を増やす努力をしている日本が、ビザの発給を斯くも厳しくするのは新興国から不法に出稼ぎに来る人間を制限するのが目的である。しかし不法の出稼ぎ人には大体ヤクザやそれに類する組織的なバックがついているので、見せかけの預金通帳などは簡単に作れるし、幾らビザを厳しくしたところで結局は日本に入ってくるのを水際で防ぐ方途はない。実際、現在日本には百万人の不法滞在者、恐らくその大部分は不法就労者、が居るという推定もある。もうビザ発給で嫌がらせをする程度では全く効果がない事は明白である。

 更に悪い事には、ビザの発給を厳しくすると如何いう訳か現地の領事館の窓口の人間の応対も、時には日本人領事の応対すらも、横柄極まりなくなる。なるべくビザを発給しない事を善しとしていて、思い付く限りの意地悪をしているのではないかと思いたくなる。勿論、その時その時の領事次第であって必ずという訳ではないのだが、駐在時代はしばしば現地の客に泣き付かれて、領事館に同行したものである。極端な時は僕等が付いているだけで、応対が変わったりもした。一般窓口の長い列を尻目に、閉っている窓口を開けてくれたりした事もある。日本人として、酷く恥ずかしい思いを何度味わったことであろうか。
 一方で国をあげて外国人誘致をしている傍から、これほどビザを厳しくしたら、普通に来日したい人でも来るのが厭になる。やっと来日しても日数がギリギリに限られていれば、滞在延長もままならない。折角日本に対する外国人の理解が進み、同時に消費が増えるチャンスの芽を自ら摘んでしまっているのである。ビザが不要の先進国の人間にだけは来て欲しいが、ビザが要る新興国の人間には来て貰わなくて良いと言うのであろうか。欧米の経済が一向に回復しない中で、益々新興国向けの経済活動が重要になっているこの時期に、友人のような親日家にまで門戸を狭めるのは如何なものであろうか。
 中国・北朝鮮寄りの民主党政権は、最近になって中国人観光客誘致の為に中国人だけにはビザを緩くしたが、他の諸国向けは相変わらずである。過去に日本で不法行為を働いたり、不法滞在をしたり、その他明らかに不穏な分子をビザで篩に掛けるのは結構である。しかし、預金高を調べ毎日の予定を出させ、ビザの日数はその予定に準じると言うのは余りにも行き過ぎである。不法就労者を締め出す為に、善良な一般観光客やビジネス客に不快な思いをさせるのは明らかな誤りである。増してや中国にだけに偏るのは、他国から見ればこれ程不愉快な事はあるまい。
 インドネシアは、以前は日本人にはビザ無しで門戸開放していたが、最近は対抗措置としてビザが求められるようになってしまった。折角世界で一番対日感情が良く、経済的な結び付きも密接な国と些細な事で往来が不愉快になるとすれば、お互いにこれ程不幸な事は無いではないか。