baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 終わりの無いテロの連鎖

 9月30日にまた米国が、「アラビア半島のアルカイダ」という過激テロ組織の幹部を無人航空機による空爆という大っぴらなテロで殺害した。場所はイェーメン、殺害されたテロリストはアンワル・アウラキと言う、米国生まれ米国籍の、40歳になる、イェーメン人を両親に持つ男である。オバマ大統領はまたその成果を誇らしげに宣伝したようだが、幾らテロリストの幹部を殺害してもテロの連鎖は止められないと言う事が、米国には何時まで経っても理解できないようである。それどころか、増々反米感情を刺激し、必ずや次の対米テロが計画されるであろう。
 イスラム過激派のテロ思想はイスラム教とは相容れぬ思想であり、一般のイスラム教徒は過激派のテロは明快に否定する。その証拠に、世界の人口の2割以上に及ぶと言われるイスラム教徒に占めるテロリストの比率は百万分の一代ぐらいでしかいない事からも分かる。しかしイスラム過激派テロリストが信奉する宗教は勿論イスラム教であるから、やはりイスラム教に対する造詣なくしてテロリストの心理を知る事は出来ない。
 イスラム教には聖職者も偶像もない。あるのは信者とアッラーの神との一対一の関係だけである。多分それが最大の理由だと思うのだが、或いは預言者ムハンマドの時代に部族社会を超越して宗教で人々を一つに結び付けた名残りからか、イスラム教徒の国籍や民族に対する拘りは欧米人に比べて遥かに薄い。勿論、一般には宗教とは別に愛国教育をされるのが普通だから当然愛国心は持っているが、宗教的にはイスラム教徒は全て同胞である。そして、そこには神以外のリーダーは存在しない。アッラーの前には、全ての同胞は皆平等である。
 そこで現在のテロについて考えて見れば、アメリカのやっている事が如何に無意味かが自ずと見えて来る。幾らテロリストの幹部を殺害しても、テロは無くならないのである。何故なら、殺害された幹部に部下がいて、その部下が部隊となってテロを実行している訳ではなく、幹部が命令を下している訳でもない。だから特定の幹部がいなくなっても、元々西側が言うところの組織の体を成していないのだから本質的には何も変わらない。頭が居なくなったら組織は崩壊する、と言う事には全くならないのである。別の言い方をすれば、幹部の意向とは無関係に、狂信的な過激派一人一人が自らテロを決行するのである。オサマ・ビンラーデンであろうがザルカウィであろうが、幾ら幹部を殺害してもアル・カイダは無くならない。或いは例えアル・カイダが無くなっても、名前を変えて同じようなグループが出て来るだけである。
 何がイスラム過激派テロリストをして、これほど執拗に米国を敵視させるのか。その答は明白である。偏に中東問題、パレスチナの問題以外に理由は見当たらない。イスラエルの建国とそれに継ぐ暴力による領土拡張、元々の住人であるパレスチナ人の殺戮と迫害が、歴史上のメッカの住民によるメディナに逃走したイスラム教徒への攻撃、或いは十字軍による残虐極まりない、且つ一方的なイスラム教徒攻撃を彷彿とさせるのである。そしてイスラム教徒には国境も民族もないから、パレスチナの同胞が攻撃されればイスラム教徒が攻撃されているのと同義となるのである。それは、米国によるイラク攻撃やアフガニスタン攻撃にもある意味共通する。そこまでは、意識や善悪の判断に濃淡はあってもイスラム教徒に共通した受け止め方と言えよう。余談だが、十字軍が来襲するまでのイスラム圏では、イスラム教徒が若干税金を優遇された以外は、キリスト教徒もユダヤ教徒も平和裏に共存していたのである。
 だからと言ってイスラエルを一方的に支持し、イラクアフガニスタンで戦争を仕掛ける米国にテロで報復する事は、冒頭に述べたように普通のイスラム教徒は善しとはしない。他方で、対米テロを根絶させんが為にテロリスト・グループの幹部を幾ら殺害しても、全く効果は望めない事を米国はそろそろ学ぶべき時である。一にも二にも、パレスチナ問題をパレスチナ人が納得する形で納め、イスラエルパレスチナの平和共存を実現する意外にテロを終焉させる方途はないのである。僕個人としては現在最も現実的な落とし処は、オバマ大統領が一度は唱えた第三次中東戦争後の1968年に国連で議決された国境線にまでイスラエルが後退し、新たな入植活動も停止して、双方が独立国として対等な関係になる事だと思う。しかし残念ながら、そのオバマも大統領選を控えて国内のユダヤ勢力に押されて今は腰が据わらない。今のままイスラエルが強硬路線を貫いている限りは、そしてそのイスラエルを米国が支持している限りは、幾ら米国がテロリストの幹部を殺害しても対米テロは無くならない。絶対数が圧倒的に少ないとは言え、テロリストは「浜の真砂」なのである。